
中国・四国で外国人材を受け入れる人事の実務——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
中国・四国で外国人材を受け入れる人事の実務——中国・四国で人事に取り組む方へ
「ベトナム人の技能実習生を受け入れてみたが、何から始めればいいか分からなかった」
高知県の食品加工会社で人事を担当するDさんは、初めての外国人材受け入れをこう振り返ります。監理団体から「書類はこちらで用意します」と言われ、実習生が来日した。でも、現場での日本語コミュニケーションが想定以上に難しく、作業指示が伝わらないことが多発した。技術習得以前に、生活面でのサポート(病院の付き添い、銀行口座の開設、携帯電話の契約)に担当者の工数が大量に取られた。「制度のことよりも、人として関わることの準備が足りていなかった」とDさんは言います。
中国・四国の製造業・農業・水産加工業では、外国人材の受け入れが着実に進んでいます。しかし、「受け入れてみたが定着しない」「受け入れ体制が整っていなかった」という声も多い。制度の理解と実務の準備、両方が求められます。
中国・四国での外国人材受け入れの現状
島根・鳥取・高知といった人口減少が著しい県では、特に農業・水産・食品加工の現場で外国人材なしでは事業継続が難しい企業が増えています。技能実習制度・特定技能制度の活用が広がり、ベトナム・インドネシア・フィリピン・ミャンマーなどからの人材受け入れが主流になっています。
2024年に技能実習制度が「育成就労制度」に改正される方向が示されたことで、制度の大きな転換期を迎えています。従来の「実習」という位置づけから、より実質的な「就労・定着」を意識した制度に移行する流れの中で、企業側の受け入れ体制の整備がより重要になっています。
一方、愛媛・香川・広島などでは、農業や水産以外にも製造業・建設業・介護での外国人材活用が広がり始めています。
外国人材受け入れの制度を整理する
外国人材の受け入れに関わる主な在留資格を整理しておきます。
技能実習(育成就労):従来の技能実習制度を引き継ぐ形で、2024〜2027年にかけて育成就労制度に移行予定。最大3〜5年の就労を前提に、特定の職種で外国人材を受け入れる。監理団体や送り出し機関を通じた手続きが必要で、企業単独での受け入れには要件がある。
特定技能1号・2号:2019年に創設。特定の産業分野(農業・漁業・食品製造・製造業・建設業・介護など)で即戦力として就労できる在留資格。1号は最大5年、2号は更新可能で実質的な長期就労が可能。日本語能力試験と技能試験のクリアが必要。
技術・人文知識・国際業務(技人国):大学卒業以上の学歴を持ち、翻訳・通訳・IT・営業・管理職などホワイトカラー業務に就く場合の在留資格。語学スキルを活かした業務や、母国とのビジネス橋渡し役として採用するケースもある。
制度選択は、「どの業種で・何年くらい・どんな仕事に」という条件によって異なります。自社に適した制度を選ぶために、入管法に詳しい行政書士や社会保険労務士への相談が初期段階では有効です。
受け入れ前に整備すべき3つのこと
1. 日本語でのコミュニケーション環境の整備
外国人材受け入れで最もよく起きる問題が、「言葉の壁」です。作業指示・安全教育・日常会話——これらが日本語だけでは十分に伝わらないことが多い。事前に多言語マニュアル(ベトナム語・インドネシア語など)の作成、翻訳アプリの活用、社内でのやさしい日本語(外来語・専門用語を減らした話し方)の普及を進めておくことが、受け入れ後のトラブルを減らします。
2. 生活支援の仕組み
来日直後の外国人材は、住居・銀行・携帯電話・交通機関・医療機関など、生活立ち上げに多くの手続きが必要です。これを個人任せにすると、不安を抱えたまま働くことになり、定着率に影響します。担当者を決めて「最初の1ヶ月は生活支援に集中する」くらいの体制が、長期定着の鍵になります。
島根県の野菜農家では、外国人材の受け入れ開始時に「生活サポートブック」を作成しました。最寄りの病院・スーパー・銀行・ゴミ出しルールなどをイラスト付きでまとめたもので、受け入れた実習生から「不安がなくなった」と好評だったと言います。
3. 日本人社員の意識づくり
外国人材が定着するかどうかは、受け入れ現場の日本人社員の関わり方に大きく左右されます。「言葉が通じないから仕事を任せにくい」「ミスをしても怒り方が分からない」という戸惑いを放置すると、現場の摩擦が生まれます。受け入れ前に「多文化理解」の簡単な勉強会を開く、外国人材の担当メンターを決めておくといった準備が、受け入れ後のトラブルを大きく減らします。
定着させるための実践的なポイント
外国人材は採用して終わりではありません。定着させるための継続的な取り組みが必要です。
定期的な面談の実施:言葉の問題から、不満や不安を自分から言い出せない外国人材は多い。月1回程度の定期面談(できれば通訳を交えて)で、仕事面・生活面の状況を確認することで、早期離職のサインを早期に察知できます。
スキルアップの機会を作る:「日本に来て成長できた」という実感が、定着と次の仲間紹介(リファラル採用)につながります。日本語学習の支援・資格取得の補助・業務の幅を広げる機会の提供は、外国人材のモチベーション維持に効果的です。
コミュニティとのつながり支援:中国・四国の地方部では、外国人コミュニティが少なく、孤立感を抱える外国人材が少なくありません。地域の国際交流協会のイベントへの参加支援、同じ出身国の人材とのネットワーク形成など、職場外のつながりを作れるよう支援することが長期定着に寄与します。
外国人材受け入れの失敗パターン
「安い労働力」という発想からのスタート:外国人材をコスト削減の手段として位置づけた場合、受け入れ体制への投資が後回しになり、結果として現場が疲弊し、外国人材も定着しないという悪循環が生まれます。「多様な人材と共に事業を作る」という視点が、長期的な成功につながります。
監理団体任せで終わる:技能実習の場合、監理団体が多くの手続きを代行しますが、現場でのコミュニケーション・育成・定着は企業自身の取り組みです。「制度のことは団体に任せているから」という姿勢では、現場での問題は解決しません。
日本人社員との公平感の欠如:外国人材に特別なサポートを手厚くしすぎると、日本人社員から「外国人だけ優遇されている」という不満が生まれることがあります。外国人材支援を特別対応ではなく「新人サポートの延長」として整理し、日本人社員と同じ土俵で育成する視点が大切です。
外国人材受け入れのコストと費用対効果
外国人材受け入れには、目に見えるコストと見えにくいコストがあります。
目に見えるコスト:送り出し機関への費用・監理団体への管理費・在留資格申請費用・住居確保費用・生活支援費用など。技能実習の場合、受け入れ1名あたり最初の1年間で数十万円〜100万円程度のコストがかかることがあります。
見えにくいコスト:社内担当者の工数・コミュニケーション摩擦による生産性低下・早期離職した場合の再採用コストなど。これらを事前に見積もることで、受け入れ判断の根拠が明確になります。
一方、外国人材を採用・定着させることに成功した企業では、「長期的に見れば日本人採用より費用対効果が高い」という声も聞かれます。特に、技能実習から特定技能に移行して長期就労につながったケースでは、採用コストの回収が早い傾向があります。
特定技能「農業」「漁業」分野での活用
中国・四国の農業・水産業で注目されているのが、特定技能1号の「農業」「漁業」分野での活用です。
高知県のカツオ漁業では、特定技能「漁業」の在留資格を活用し、インドネシア・フィリピンからの人材受け入れを始めた事業者が増えています。技能実習と比べて本人の移動の自由度が高い分、早期離職のリスクも高くなりましたが、「定着した人材は技能実習より主体的に仕事に取り組む」という声も聞かれます。
愛媛の柑橘農家では、技能実習から特定技能への移行を経て、5年以上就労しているインドネシア人スタッフが複数名います。「この農場で育てた柑橘が日本のスーパーに並ぶのを見るのが誇らしい」と語るスタッフの言葉が、受け入れ農家にとっての誇りにもなっていると聞きます。
制度の活用方針は、「どの業種・どの職種で・何年間」受け入れるかによって最適な選択が変わります。行政書士や専門コンサルタントとの相談を早めに始めることが、スムーズな受け入れの前提になります。
受け入れ先として「選ばれる企業」になる
外国人材は、今や複数の受け入れ先を比較して選ぶ時代になっています。「どこでも良いから行く」のではなく、「あの会社は評判がいい」という口コミや、仲間・先輩からの紹介で企業を選ぶ外国人材が増えています。
特に技能実習から特定技能へのルートが整備されたことで、「長く働きたい会社かどうか」が外国人材にとっても重要な選択基準になっています。
「受け入れた外国人材が活き活きと働いている」「日本語学習を支援している」「生活面でのサポートが手厚い」——こうした評判が、次の採用のしやすさに直結します。外国人材受け入れも、受け入れてからが採用の本番と考えることが大切です。
外国人材採用を「組織の多様性」として活かす
外国人材の受け入れは、単なる人手不足対策にとどまりません。異なる文化・価値観・仕事の進め方を持った人材が加わることで、組織の考え方が広がることがあります。
徳島の食品会社では、ベトナム人スタッフが「なぜこの工程をこの順番でやるのか」と素朴な疑問を投げかけたことで、長年の慣習を見直すきっかけになったと聞きます。「外国人材が来たことで、日本人社員も仕事の説明を言語化するようになった」という声もあります。
外国人材の活躍が、組織全体の改善と成長につながる——その視点を持って受け入れ体制を整えることが、中国・四国の人事担当者に求められていることです。
外国人材受け入れの「長期視点」を持つ
外国人材受け入れに取り組む企業の中には、「とりあえず今の人手不足を乗り切りたい」という短期的な動機から始まるケースがあります。しかしその姿勢では、受け入れ体制への投資が後回しになり、結果として定着しない・現場が疲弊するというサイクルに陥りがちです。
長期的な視点で外国人材受け入れを設計するとは、「今から3〜5年後に、どんな人材にどの役割を担ってもらいたいか」を考えた上で、採用・育成・定着の計画を立てることです。技能実習から特定技能への移行を経て、将来的には「その国の市場と結びつくビジネスの担い手になってもらう」という長期展望を持つ企業も出てきています。
外国人材との長期的な関係構築は、単なる労働力確保を超えた、事業のグローバル展開や多様性推進の文脈でも意義を持ちます。
人事担当者として「何を学ぶか」
外国人材受け入れに初めて取り組む人事担当者にとって、「どこから勉強すればいいか」は大きな壁です。入管法・労働法の知識、異文化コミュニケーションの基礎、各国の文化・習慣の理解——一度に全部習得しようとする必要はありません。
まず「自社が使う制度の基本的な手続き」を理解し、次に「現場でよく起きる問題とその対処法」を学ぶという順序で、実務と並行して知識を積み上げることが現実的です。同じ課題を持つ企業の人事担当者とのネットワーキングや、専門家(行政書士・社労士)との相談関係の構築が、学びの効率を高めます。
外国人材受け入れが「採用広報」になる時代
外国人材を積極的に受け入れ、活躍させている企業は、採用広報においても強みを持ち始めています。「多様な人材が働いている職場」「外国人スタッフが活躍している」というメッセージは、若い世代の求職者にとって「この職場は開かれている」という印象を与えます。
特にZ世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)は、多様性に対してセンシティブで、「外国人が普通に働いている会社」をポジティブに評価する傾向があります。外国人材の活躍を採用サイトや会社紹介に掲載することで、日本人の若手採用にも好影響が出ることがあります。
外国人材受け入れは、単なる人手不足対策を超えて「組織の多様性と開かれた文化のシグナル」として機能する時代になっています。その視点を持って受け入れ体制と発信を設計することが、中国・四国の人事担当者にとっての新しい強みになります。
もっと深く学びたい方へ
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