
地方のシニア活躍推進——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
地方のシニア活躍推進——中国・四国で人事に取り組む方へ
「60歳になったら、急に仕事が減らされた感じがして、正直しんどかった」
岡山の建設関連会社で30年以上働いてきたベテラン社員が、定年延長後の働き方についてこう話してくれました。役職定年後、給与は3割減。担当する業務は若手のサポート役になり、「何のために会社に来ているのか分からなくなった」という時期が続いたと言います。それを聞いていた人事担当者は「制度は整えたつもりだったが、本人がやりがいを感じる設計ができていなかった」と反省を口にしました。
中国・四国の企業では、「シニア社員を長く活躍させること」が採用難への回答であると同時に、職場の活力維持の課題でもあります。単に「定年を延ばす」だけでは、シニア社員の意欲を維持することはできません。
中国・四国でシニア活躍が急務な理由
島根・鳥取・高知では、生産年齢人口(15〜64歳)の減少が全国平均を上回るペースで進んでいます。広島・岡山でも製造業の現場では、熟練技術者の高齢化と若手不足が重なり、「技術を持った人間が高齢化で退職した後、その技術をどう継承するか」が深刻な課題になっています。
高齢者雇用安定法の改正により、65歳までの雇用確保が企業の義務となり、さらに70歳までの就業機会確保の努力義務も課されています。しかし「制度として定年延長している」だけで、実質的には「雑務担当」「窓際のお荷物」になっているシニア社員がいる職場は、実態としてよく見られます。
こうした状況を変えるために、「シニアが活躍できる役割設計」を人事担当者が主導することが求められています。
シニア活躍を阻む3つの壁
壁1:役職定年による意欲低下
役職定年で管理職から降りた後、やりがいを見失うシニアが多い。現役時代に積み上げたスキルと経験が「もう必要ない」と感じさせてしまうことが、モチベーション低下につながります。役職から降りた後も「この人に期待していること」を明確に伝える仕組みが必要です。
壁2:若手との関係性の難しさ
「昔は自分が上司だった人に指示を出しにくい」という若手の遠慮、「自分のやり方を否定された」というシニアの不満——この心理的な摩擦が、世代間のコミュニケーションを阻んでいます。両者が建設的に関わるための関係性づくりを職場設計に組み込む必要があります。
壁3:体力・健康上の制約への無理解
加齢に伴う体力低下・持病の影響・集中力の変化——これらは個人差が大きく、一律に「高齢だからここまで」と線引きすることも難しい。シニア社員の健康状態を定期的に把握し、本人の意向と職場の需要を合わせた柔軟な配置調整ができる仕組みが重要です。
シニア活躍推進の実践的アプローチ
1. 「役割の再定義」で意欲を引き出す
シニア社員が活き活きと働くには、「自分が何を期待されているか」が明確であることが不可欠です。定年後の継続雇用時や役職定年後に、「これからの役割」を本人と話し合い、文書で合意する機会を設けることが有効です。
たとえば、愛媛のある柑橘加工会社では、60代のベテランを「技術顧問」として位置づけ直しました。若手の指導・品質管理の監修・新商品開発のアドバイスという役割を明確化したことで、本人のモチベーションが回復し、若手からも「困ったときに聞ける先輩」として頼られる存在になったと言います。
2. 技能継承の「見える化」プロジェクト
長年の経験から生まれた「暗黙知」——熟練した作業者だけが持つ感覚・コツ・判断基準——をどう次世代に引き継ぐかは、製造業・農業・水産業では特に重要な課題です。
この暗黙知を動画・マニュアル・OJTセッションなどで「見える知識」に変換するプロジェクトに、シニア社員を主役として参加させることで、「自分の経験が会社の財産になる」という実感を生み出すことができます。
3. 評価・報酬の見直し
継続雇用後の給与が大幅に下がることで、「この給与では頑張れない」という気持ちになるシニアは少なくありません。すべての企業が給与を上げられるわけではありませんが、「成果に応じたインセンティブ」「スキルを発揮した際の特別手当」「柔軟な勤務時間の選択肢」など、金銭以外の部分を含めて報酬設計を見直すことが重要です。
シニア活躍推進の「数字での説明方法」
シニア活躍推進を経営者に提案するとき、「人を大切にすることが大事」という言葉だけでは経営判断につながりにくいことがあります。数字での説明が有効です。
たとえば、「60歳で退職したベテラン技術者を再雇用してフルタイム勤務してもらうことで、新人採用と比べて初年度の実質生産性が〇%高い」「継続雇用コストは新規採用コストの何分の一か」——こうした比較を示すことで、シニア活躍推進を「コスト削減策」ではなく「投資対効果の高い施策」として位置づけることができます。
また、継続雇用中のシニア社員が若手にOJTを行った時間数を「内部研修コストの節約額」に換算し、シニア活躍推進の経済効果として示す方法もあります。愛媛の農機具メーカーでは、「ベテランによる若手指導によって若手の習熟期間が平均3ヶ月短縮された」という実績を給与換算で示し、シニア継続雇用の予算承認を得ました。
「働き続けたい」気持ちに応える環境をつくる
高齢者雇用安定法の改正による義務化だけを理由にシニアを継続雇用する企業と、「この人に長く力を発揮してもらいたい」という意思を持って環境を整える企業とでは、シニア社員の働きぶりに大きな差が出ます。
「働き続けたい」という意欲を持つシニアに対して、職場が「居場所」を用意しているかどうか——それが定着とパフォーマンスの鍵です。仕事の中に「自分だからできる貢献」が見えるとき、シニアの仕事への向き合い方は大きく変わります。
シニア採用という選択肢
自社のシニア社員の活躍推進と並行して、「社外のシニア人材を採用する」という視点も広がっています。
60〜65歳で早期退職した元大企業の管理職・技術者・営業経験者が、地方の中小企業に「まだ力を発揮したい」と考えるケースは少なくありません。都市部の企業で30〜40年のキャリアを積んだシニアが、Uターンや移住とセットで地方企業に転職するパターンが増えつつあります。
そうした人材は、即戦力として業務を担うだけでなく、都市部の経験・人脈・業界知識を持ち込んでくれる可能性があります。シニアの中途採用を「若手の採用が難しい時期の妥協策」ではなく、「経験人材の積極的な確保戦略」として位置づけ直すことで、採用の選択肢が広がります。
シニア活躍が組織全体に与える効果
シニアが活き活きと働いている職場は、若手にとっても「ここで長く働くイメージが持てる」という安心感を与えます。「定年後も活躍できる会社」というメッセージは、30〜40代の採用でも訴求力を持ちます。「20年後の自分もここで働いていたい」と思える職場を作ることが、今の採用力と定着率を高めることに直結します。シニアと若手が互いを尊重し、補い合える職場文化を醸成することが、組織の長期的な競争力の源泉になります。
また、シニアと若手が協働する場では、世代を超えたメンタリングが自然に生まれ、若手の成長スピードが上がるという効果もあります。
シニア活躍推進は、シニア自身のためだけでなく、組織全体の活性化に貢献します。その設計を担うことが、地方中小企業の人事担当者の重要な仕事のひとつです。シニア一人ひとりの強みと意欲を組織の力に変える——その視点を持って取り組むことが、人口減少時代における中国・四国の地方企業の持続可能性を高めることにつながります。高齢化が深刻な課題である地域だからこそ、シニアの活躍推進に本気で取り組む企業が「選ばれる会社」になる可能性を秘めています。その実践の舞台が、中国・四国にはすでに用意されています。
シニア社員の「健康」と「働き方」を両立させる
シニア活躍推進において見落とされがちな視点が、健康管理との連動です。60代以降の働き手が増える中で、「元気に働き続けてもらう」ための環境整備が、シニア活躍の持続性に直結します。
長時間の立ち仕事・夜間勤務・重い荷物の運搬——こうした身体的な負担が大きい業務は、60代以降の社員には適切な配慮が必要です。しかし、「高齢だから軽い仕事しかやらせない」という一律の扱いは、本人の自尊心を傷つけ、意欲低下を招くことがあります。
本人と定期的に面談し、「今の健康状態・体力の変化」「やりたい仕事・無理なく続けられる仕事」を確認しながら、柔軟に業務調整できる仕組みを作ることが、シニア社員を長期的に活かすための基盤です。
産業医・保健師との連携がある会社では、「健康状態の専門的なサポート」と「仕事上の調整」を合わせて行えるため、シニア社員の定着率が高い傾向があります。
シニアの「知恵と人脈」を事業に活かす
シニア社員が持っている価値は、技術や経験だけではありません。長年の地域での活動を通じて築いてきた人脈・取引先との信頼・地域コミュニティとのつながり——これらは若手や中途採用者が短期間では得られない財産です。
島根の建設会社では、70代を前に継続雇用中のベテラン社員が、地元の農家コミュニティとの長年の関係から新規案件を持ち込み、その年の売上の5%に相当する工事受注につながったという事例があります。「シニアは前線を退いた人材」という前提を外して、「別の形で事業を支えてくれる存在」として関わり方を設計することで、思わぬ事業価値が生まれることがあります。
シニア世代の「多様な働き方」を設計する
シニア社員の働き方は、一律である必要はありません。フルタイムから週4日・週3日・半日勤務・繁忙期のみ出勤——こうした柔軟な働き方の選択肢を設けることで、体力・健康状態・家庭の事情に合わせて長く働き続けることができます。
また、「現役引退後も、顧問やアドバイザーとして関わり続ける」という関係性を設計している企業も増えています。完全退職後も月1〜2回、特定の業務だけ関わるという形は、シニア側にとっても「まだ必要とされている」という充実感につながり、企業側にとっても熟練知識の活用継続というメリットがあります。
シニアの「多様な働き方」を制度として整備することは、「長く働ける会社」としての採用ブランドを強化することにもつながります。
シニア活躍推進の「よくある誤解」を解く
シニア活躍推進を検討する際、よく耳にする誤解がいくつかあります。
「シニアを継続雇用すると若手のポストが詰まる」:これは一定程度事実ですが、シニアが担う役割をプレイヤーからメンター・アドバイザー・品質管理・特定技術の継承者などに再設計することで、若手のキャリアラインとシニアの活躍を両立させることができます。「全員が同じキャリアラダーを上がる」という前提を外すことがポイントです。
「シニアに高い給与を払い続けるのはコスト高」:継続雇用後の給与設定は役割と期待値に合わせて設計できます。役職定年後に給与水準を下げることは法的に問題ありませんが、「下げ幅が大きすぎるとモチベーション低下を招く」というバランスへの配慮が必要です。一方、シニアの採用・再採用コストがゼロであることを考えれば、継続雇用コストの「投資対効果」は外部採用より高いことが多い。
「シニアはデジタルに弱い」:一概には言えません。60代でも積極的にITツールを活用し、業務効率化を主導しているシニアは少なくありません。デジタルリテラシーは世代よりも個人差が大きく、「シニアだからデジタルは難しい」という決めつけがシニア活躍の機会を狭めることがあります。
「長く働ける職場」を中国・四国から作る
中国・四国という地域で、人口減少と高齢化が続く中で事業を続けていくには、「すべての世代が活躍できる職場」を設計する力が求められます。
シニアが力を発揮し、若手がその背中から学び、外国人材や女性も含めた多様な人材が同じ目標に向かって働く——そういった職場を作ることが、地方の人事担当者の真の仕事だと思います。その取り組みが、地域の事業を次の世代につなぐことにもなります。
もっと深く学びたい方へ
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