
広島の広告企業がクリエイティブ人材を確保する方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
- 広島のクリエイティブ産業が置かれている環境
- クリエイティブ人材の採用を経営数字で考える
- クリエイティブ人材が「広島で働く」を選ぶ理由を設計する
- 「クライアントとの距離の近さ」を売りにする
- 「生活の質」を数字で示す
- 「成長機会」を提供する
- 採用チャネルの設計——クリエイティブ人材はどこにいるか
- ポートフォリオサイト・SNSでの直接アプローチ
- 自社のクリエイティブ力を発信する
- クリエイティブコミュニティとの接点を持つ
- UIターン層へのアプローチ
- クリエイティブ人材が定着する組織づくり
- クリエイティブの裁量を確保する
- 評価制度をクリエイティブ職に合わせる
- キャリアパスを明示する
- クリエイティブ人材の確保にかかるコストと投資対効果
- 広島のクリエイティブ産業の可能性
広島の広告企業がクリエイティブ人材を確保する方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
「デザイナーが採れない。コピーライターもいない。結局、東京の制作会社に外注するしかない」。広島市内にある広告代理店の経営者が、そう嘆いていました。
広島は中国地方最大の都市であり、地元に根ざした広告代理店、制作会社、デザイン事務所が数多く存在します。広島東洋カープやサンフレッチェ広島のスポーツマーケティング、平和記念都市としてのブランディング、瀬戸内海の観光プロモーション——広島には独自の広告・クリエイティブ需要があります。
しかし、その需要を支えるクリエイティブ人材が不足しています。デザイナー、コピーライター、映像クリエイター、ウェブディレクター——こうした専門職は、東京や大阪に集中する傾向が強く、広島での採用は容易ではありません。
私はこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきましたが、クリエイティブ人材の採用と定着には、一般職とは異なるアプローチが求められます。クリエイターには独自の動機づけ構造があり、それを理解しないまま「一般企業と同じ採用・人事制度」を適用しても、人は集まりません。この記事では、広島の広告企業がクリエイティブ人材を確保するための方法を、経営数字の視点から考えていきます。
広島のクリエイティブ産業が置かれている環境
広島のクリエイティブ産業には、東京とは異なる独特の構造があります。
まず、市場規模の問題。広島県の広告市場は、東京に比べれば規模は小さい。しかし、地元企業の広告需要は確実に存在し、特にデジタルマーケティング、SNS運用、動画制作の需要は年々増加しています。広島に拠点を持つ企業の多くが「東京の大手代理店に頼むほどの予算はないが、地元で質の高いクリエイティブを作りたい」というニーズを持っています。
次に、人材プールの制約。広島には広島市立大学の芸術学部、比治山大学のデザイン系学科などクリエイティブ教育を行う教育機関がありますが、卒業生の多くが東京や大阪に就職します。「広島でクリエイティブの仕事がしたい」と思っても、選択肢が限られると感じて都市部に流れてしまう。
さらに、給与水準のギャップ。東京のクリエイティブ職の給与と広島のそれには、一定の差があります。デザイナーの平均年収を見ると、東京と広島では50万円から100万円程度の開きがある場合もあります。この給与差を埋められないと、人材の流出は止まりません。
一方で、広島ならではの強みもあります。生活コストが東京より低い(特に住居費)、通勤時間が短い、自然環境が豊か、クライアントとの距離が近い——こうした「働き方の質」では、広島は東京に勝てる要素を持っています。
クリエイティブ人材の採用を経営数字で考える
クリエイティブ人材の不足が経営に与える影響を数字で見てみます。
外注コストの増大:社内にクリエイティブ人材がいないため、デザインや制作を外注する場合。ウェブサイトの制作を東京の制作会社に発注すると、同等の品質を広島の社内制作で行う場合の1.5〜2倍のコストがかかるケースがあります。年間の外注費が1,000万円であれば、社内制作チームを持つことで500万円以上のコスト削減が可能です。
受注機会の損失:クリエイティブ人材が不足しているために、クライアントからの案件を断らざるを得ないケース。1件あたり300万円の案件を年間5件断っていれば、1,500万円の売上機会の損失です。
品質と納期のリスク:外注に依存すると、品質管理が難しくなり、修正対応に時間がかかる。クライアントの急な要望に対応できず、顧客満足度が低下するリスクもあります。
提案力の低下:社内にクリエイティブの知見を持つ人材がいないと、クライアントへの提案が営業主導になりがちで、「どこも同じような提案」になってしまう。差別化ができず、価格競争に陥る。
広島のある広告代理店(従業員25名)では、デザイナー2名の退職後に後任が見つからず、年間600万円の外注費が発生していました。この金額は、デザイナー1名の人件費に相当します。つまり、採用に成功すれば外注費をほぼゼロにできる計算です。
クリエイティブ人材が「広島で働く」を選ぶ理由を設計する
クリエイティブ人材に「広島で働きたい」と思ってもらうためには、東京にはない価値を明確に提示する必要があります。
「クライアントとの距離の近さ」を売りにする
東京の大手代理店では、クリエイターとクライアントの間に何層もの人が入り、直接対話する機会が少ない。一方、広島の広告企業では、クリエイターがクライアントと直接打ち合わせをし、課題をヒアリングし、提案から実行まで一気通貫で関わることができる。
「自分の作ったものが、目の前のクライアントにどう響くかを直接見られる」——これは、クリエイターにとって非常に魅力的な環境です。東京では味わえないこの体験を、採用メッセージとして明確に打ち出す。
「生活の質」を数字で示す
広島での生活コストの優位性を、具体的に示します。家賃は東京の50〜60%程度(ワンルームで月5〜6万円)、通勤時間は平均30分以内、自然環境へのアクセスは抜群(海・山が30分圏内)。年収が東京より50万円低くても、家賃差だけで年間40〜60万円浮く。実質的な生活水準は東京とほぼ同等か、むしろ豊かになる場合もある。
この「実質年収」の考え方を、採用面接や求人情報の中で具体的に伝える。「年収500万円で東京の650万円相当の暮らしができます」——こうした訴求は、特にUターンを検討しているクリエイターに刺さります。
「成長機会」を提供する
クリエイターは「スキルの成長」を重視します。東京にいなくても成長できる環境を用意することが重要です。
外部のクリエイティブイベントやカンファレンスへの参加費・交通費を会社が負担する。オンラインの学習プラットフォーム(Udemy、Schooなど)の利用費を補助する。社内で定期的な作品レビュー会を開催し、相互にフィードバックし合う文化を作る。
広島のあるウェブ制作会社では、「年間20万円の自己投資手当」を設けています。書籍、セミナー、ツールの購入など、スキルアップに関わるものであれば使途は自由。この手当が採用面接での訴求ポイントになっているそうです。
採用チャネルの設計——クリエイティブ人材はどこにいるか
クリエイティブ人材の採用チャネルは、一般職とは異なります。
ポートフォリオサイト・SNSでの直接アプローチ
クリエイターは、Behance、Dribbble、Xなどのプラットフォームで自分の作品を公開しています。「広島出身」「地方移住に興味がある」といったプロフィールを持つクリエイターを見つけ、直接メッセージを送るアプローチが有効です。
ここで重要なのは、「求人の案内」ではなく「作品への共感」から入ること。「あなたの作品を見て、ぜひ一度お話ししたいと思いました」——こうしたアプローチは、クリエイターの自尊心に響きます。
自社のクリエイティブ力を発信する
クリエイターは「この会社のアウトプットが好きだから働きたい」という動機で入社することがあります。自社の制作実績をウェブサイトやSNSで積極的に発信する。「広島の企業がこんなクリエイティブを作っている」という情報が、潜在的な求職者の目に留まる。
広島のある制作会社では、自社サイトに制作実績のケーススタディを詳しく掲載しています。クライアントの課題、提案内容、制作プロセス、成果——こうした情報がクリエイターの「ここで働きたい」という気持ちを醸成する。実際に、このケーススタディを見て応募してきた候補者が複数いると言います。
クリエイティブコミュニティとの接点を持つ
広島には、デザイナーやエンジニアのコミュニティが存在します。勉強会やイベントに参加し、あるいは自社でイベントを主催することで、クリエイターとのネットワークを構築する。直接的な採用目的ではなく、「広島のクリエイティブ業界を盛り上げる」というスタンスで関わることが、長期的な採用ブランディングにつながります。
UIターン層へのアプローチ
広島出身で東京で働いているクリエイターは、潜在的なUIターン候補者です。ふるさと回帰支援センターや広島県の移住相談窓口と連携し、UIターン希望者に自社の情報を届ける。
また、「まずはリモートで働いてみませんか」という提案も有効です。いきなり移住を求めるのではなく、リモートワークから始めて、徐々に広島への関わりを深めてもらう。広島に出張で来たときに「やっぱり広島はいいな」と感じてもらえれば、移住のハードルが下がります。
クリエイティブ人材が定着する組織づくり
採用できても、定着しなければ意味がありません。クリエイティブ人材が長く働き続ける組織の条件を整理します。
クリエイティブの裁量を確保する
クリエイターにとって最もストレスなのは、「クリエイティブの判断が非クリエイターに握られている」状態です。営業主導で「クライアントがこう言っているから、この通りにして」と言われるだけの環境では、クリエイターのモチベーションは続きません。
クリエイターには、デザインやコピーの方向性を提案し、その根拠を説明する機会を与える。最終判断がクライアントにあるのは当然ですが、クリエイターの専門性を尊重するプロセスを設計する。
評価制度をクリエイティブ職に合わせる
一般的な人事評価(売上目標の達成率、勤務態度など)は、クリエイティブ職にはフィットしません。クリエイティブの質、クライアントの満足度、新しい技術への挑戦、チームへの貢献——こうした指標を評価に組み込む。
また、評価者にクリエイティブの知見がないと、「なんとなく良さそう」「なんとなくイマイチ」という主観的な評価になりがちです。外部のクリエイティブディレクターに評価に参加してもらう、あるいはポートフォリオレビューを評価プロセスに組み込むなどの工夫が考えられます。
キャリアパスを明示する
クリエイターのキャリアパスが「マネジメント」しかない企業は、トップクリエイターが離職しやすい。クリエイティブのスペシャリストとしてのキャリアパス(シニアデザイナー、アートディレクター、クリエイティブディレクターなど)を明示し、「手を動かし続けながらキャリアアップできる」道筋を示す。
クリエイティブ人材の確保にかかるコストと投資対効果
クリエイティブ人材1名の採用にかかるコストと、確保できた場合の効果を整理します。
採用コスト:クリエイティブ特化型の求人サイトへの掲載が月5〜10万円、エージェント利用の場合は年収の25〜30%(年収400万円なら100〜120万円)、SNSでの直接アプローチは実質コストゼロ(ただし人事担当者の時間がかかる)。
確保できた場合の効果:外注費の削減が年間300〜500万円、受注可能案件の増加が年間500〜1,000万円の売上増、提案力の向上による既存クライアントの契約継続率アップ。
投資対効果で見れば、クリエイティブ人材の確保は、広島の広告企業にとって優先度の高い経営課題です。
広島のクリエイティブ産業の可能性
広島の広告企業がクリエイティブ人材を確保できれば、この地域のクリエイティブ産業全体の底上げにつながります。質の高いクリエイティブが広島から生まれれば、「広島でもこんなものが作れるのか」という評価が高まり、さらに多くのクリエイターが広島に集まる好循環が生まれる。
瀬戸内の美しい風景、広島の歴史と文化、この地域ならではのストーリー——広島には、クリエイティブの素材が豊富にあります。東京の真似をする必要はありません。広島の企業が、広島らしいクリエイティブを生み出す。そのための人材確保が、今、求められています。
私は、広島のクリエイティブ産業には大きな可能性があると考えています。その可能性を実現するためには、「人」への投資を惜しまないこと。そして、クリエイティブ人材が「広島で働くことに誇りを持てる」環境を整えること。それが、経営者と人事担当者に求められている取り組みです。
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