
中国・四国の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
- 副業・兼業の「今」を理解する
- 副業・兼業制度の経営効果
- メリット1:社員のスキル・知識の拡充
- メリット2:採用競争力の強化
- メリット3:離職防止
- メリット4:外部人脈の獲得
- メリット5:将来の起業人材の「卒業」を穏やかに
- 副業・兼業制度の設計
- 制度の基本フレーム
- 申請・報告のルール
- 副業・兼業制度の運用上の留意点
- 本業と副業のバランス管理
- 社内の公平性の確保
- 社会保険・税務の対応
- 中国・四国ならではの副業・兼業の可能性
- 都市部人材の「副業受け入れ」
- 地域の複業人材の活用
- 官民連携の副業スキーム
- 副業・兼業制度の導入ステップ
- ステップ1:社内の実態把握
- ステップ2:制度設計
- ステップ3:トライアル実施
- ステップ4:本格導入と定期見直し
- 副業・兼業制度の導入コスト
- まとめ
中国・四国の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
「うちの社員が副業をしたいと言ってきたんですけど、どう対応すればいいですか」。岡山のある中堅メーカーの人事担当者から、戸惑いを隠せない様子でこう相談されました。
この相談は、ここ数年で急増しています。厚生労働省が2018年にモデル就業規則を改定し、副業・兼業の促進を打ち出して以降、社員から「副業をしたい」という声が増えている。しかし、中国・四国の中小企業の多くは「副業=本業がおろそかになる」「情報漏洩のリスクがある」「そもそもうちみたいな中小企業で副業って必要なのか」——こうした懸念から、副業を認めていない、あるいは「前例がないからどうすればいいかわからない」状態にあります。
しかし、副業・兼業制度は、社員の「流出」を防ぐための制度であると同時に、外部の知識・スキル・人脈を「流入」させるための制度でもあります。つまり、企業にとっても大きなメリットがある。
私はこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきましたが、副業・兼業制度は「リスク」よりも「機会」として捉えるべきだと考えています。この記事では、中国・四国の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法を、経営数字の視点から考えていきます。
副業・兼業の「今」を理解する
まず、副業・兼業をめぐる現状を整理します。
法制度の動き:厚生労働省は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、モデル就業規則から副業禁止の規定を削除しました。その後も2020年、2022年にガイドラインを改定し、副業・兼業の推進を明確にしています。労働者の副業・兼業を認めることは、企業にとっての義務ではありませんが、「社会の流れ」として避けられないテーマになっています。
社員のニーズ:パーソル総合研究所の調査によれば、正社員の10%以上が副業を実施しており、副業に興味がある層を含めると4割を超えるとされています。特に20〜30代の若手世代で関心が高い。
企業の対応状況:副業を容認している企業は増加傾向にありますが、依然として「原則禁止」の企業が多数派です。特に中小企業では、制度を整備していない企業が大半です。
中国・四国の中小企業が副業・兼業制度を導入する場合、「時代の要請」と「自社の実情」のバランスを取りながら、段階的に進めることが現実的です。
副業・兼業制度の経営効果
副業・兼業を認めることが、企業にどんなメリットをもたらすかを整理します。
メリット1:社員のスキル・知識の拡充
副業を通じて、社員が本業では得られない知識やスキルを身につけてくる。たとえば、製造業の社員がIT企業で副業することで、デジタルスキルが向上する。地元の建設会社の社員がマーケティング関連の副業をすることで、自社の採用ブランディングに新しいアイデアを持ち込む。
これらの知識・スキルが本業にフィードバックされれば、社員の付加価値が向上し、組織全体の能力が底上げされます。
メリット2:採用競争力の強化
「副業OK」は、採用面でのアピールポイントになります。特に、クリエイティブ職やIT人材など、副業に関心が高い層にとっては、副業を認めているかどうかが選社基準の一つになります。
広島のあるウェブ制作会社では、求人広告に「副業OK」を明記したところ、応募数が以前の2倍に増加。「副業ができるから応募した」という候補者も実際にいたそうです。
メリット3:離職防止
「副業をしたいけど、会社が認めてくれないから辞めるしかない」——この理由で退職する社員が出ることを防げます。副業を認めることは、社員に「自社に残りながら、やりたいことに挑戦できる」選択肢を提供することです。
メリット4:外部人脈の獲得
社員が副業先で築いた人脈が、本業に活きることがある。新しい取引先の紹介、業界情報の入手、協業のきっかけ——社員の外部活動が、企業のネットワークを広げます。
メリット5:将来の起業人材の「卒業」を穏やかに
いずれ独立したい、という志を持つ社員が一定数います。副業を通じて独立の準備ができれば、突然の退職ではなく、計画的な「卒業」が可能になり、引き継ぎもスムーズになります。
副業・兼業制度の設計
制度の基本フレーム
許可制と届出制:副業を「許可制」にするか「届出制」にするかが最初の判断です。許可制は会社の承認が必要、届出制は届け出れば原則OK。中小企業では、まず「許可制」から始め、運用が安定したら「届出制」に移行するのが安全です。
対象者の範囲:全社員を対象にするか、一定の条件(勤続年数○年以上、直近の評価がB以上など)を設けるか。条件を設けることで、「本業に支障が出るリスクが高い社員」の副業を制限できます。
競業避止と情報管理:同業他社での副業は禁止する。自社の機密情報を副業先に持ち出さないことを就業規則に明記し、誓約書を取得する。
労働時間の管理:副業を含めた総労働時間が過度にならないよう管理する。厚生労働省のガイドラインでは、副業を含めた労働時間の上限規制について指針を示しています。自社で「副業は週10時間以内」「平日の副業は20時以降」などのガイドラインを設定するのも一つの方法です。
申請・報告のルール
申請時に提出する情報:副業先の企業名(または業務内容)、業務の概要、想定される労働時間、競業に該当しないことの確認。
定期的な報告:四半期に1回、副業の状況(労働時間、健康状態、本業への影響)を報告する。
本業への影響が出た場合のルール:本業のパフォーマンスが低下した場合、副業の時間を減らす、または中止するよう求められることを、事前に明示する。
副業・兼業制度の運用上の留意点
本業と副業のバランス管理
副業に熱中するあまり、本業がおろそかになるケースは実際に起こり得ます。これを防ぐために、「本業のパフォーマンスが維持されていること」を副業継続の条件にする。
定期的な上司との面談で「副業の状況はどうですか。本業に影響は出ていませんか」を確認する。健康面のチェック(過重労働になっていないか)も行う。
社内の公平性の確保
副業ができる職種(デスクワーク中心の社員)とできない職種(シフト勤務の現場社員)で、不公平感が生じる可能性があります。副業以外の形で「成長機会」や「収入増の機会」を現場社員にも提供する(資格手当の充実、副業に代わる社内プロジェクトへの参加機会など)ことで、バランスを取る。
社会保険・税務の対応
副業をしている社員の社会保険料や税務処理は、従来よりも複雑になります。人事・経理担当者が基本的な知識を持っておく必要があります。社員には「副業の収入について確定申告が必要な場合がある」ことを周知する。
中国・四国ならではの副業・兼業の可能性
中国・四国の地域特性を活かした副業・兼業の形を紹介します。
都市部人材の「副業受け入れ」
中国・四国の企業が、東京や大阪の人材を「副業社員」として受け入れる。フルタイムの正社員として採用するのは難しい高度人材(マーケティング、IT、財務など)を、週10時間の副業契約で確保する。
島根のある食品メーカーでは、東京在住のマーケティングコンサルタントと「月20時間の副業契約」を締結。月額10万円の報酬で、自社のブランディング戦略のアドバイスを受けています。フルタイムで雇用すれば年収600万円以上が必要な人材を、年間120万円で活用できている計算です。
地域の複業人材の活用
中国・四国には、農業や漁業と別の仕事を兼業している「複業人材」が伝統的に存在します。この文化を活かし、「農繁期は農業、農閑期は自社の仕事」というフレキシブルな働き方を提供する企業もあります。
高知のある建設会社では、農業を営みながら建設作業員として働く社員を複数名雇用しています。農繁期(4〜6月、9〜11月)は週3日勤務、それ以外は週5日勤務。この柔軟な働き方が、「農業も続けたいけど、安定収入もほしい」という地元人材のニーズに合致し、採用・定着に成功しています。
官民連携の副業スキーム
総務省の「地域おこし企業人」制度や、自治体が推進する「プロフェッショナル人材事業」を活用して、都市部の企業に勤める人材が中国・四国の企業で副業的に関わるスキームがあります。中小企業にとっては、専門人材を低コストで活用できるメリットがあります。
副業・兼業制度の導入ステップ
ステップ1:社内の実態把握
まず、社員の副業に対するニーズを把握する。匿名アンケートで「副業に興味があるか」「どんな副業をしたいか」「本業への影響をどう考えるか」を聞く。
ステップ2:制度設計
就業規則の改定、申請・報告のフロー、競業避止のルール、労働時間管理の方法を設計する。社会保険労務士の助言を受けることをおすすめします。
ステップ3:トライアル実施
全社員に一斉展開するのではなく、希望者数名で半年間のトライアルを実施する。トライアル中に「本業への影響」「健康面の問題」「運用上の課題」を検証する。
ステップ4:本格導入と定期見直し
トライアルの結果を踏まえて、全社展開する。導入後も半年に1回、制度の運用状況をレビューし、必要に応じてルールを見直す。
副業・兼業制度の導入コスト
制度の導入自体にかかるコストは限定的です。
就業規則の改定:社会保険労務士に依頼する場合、5〜15万円程度。 社内説明会の実施:社内のリソースで対応可能。外部講師を招く場合は10〜20万円。 申請・管理の仕組み:Googleフォームやスプレッドシートで十分に管理可能。 継続的な運用コスト:人事担当者の工数(月2〜5時間程度)。
合計で初期投資は10〜30万円程度。採用力の向上、離職率の改善、社員のスキルアップといった効果を考えれば、投資対効果は十分です。
まとめ
副業・兼業制度は、中国・四国の中小企業にとって「リスク」ではなく「機会」です。社員のスキルと視野を広げ、採用競争力を高め、離職を防ぎ、外部の人脈やノウハウを組織に取り込む——こうした効果が期待できます。
大切なのは、「適切なルールの下で認める」こと。競業避止、情報管理、労働時間の上限、本業への影響確認——最低限のガードレールを設けた上で、社員の自律的なキャリア形成を支援する。
中国・四国の企業が、副業・兼業を通じて「人材の幅」を広げていく。自社の枠にとどまらない知識・スキル・人脈が、この地域の企業と産業の可能性を広げていく。その第一歩として、副業・兼業制度の導入を検討していただきたいと思います。
社員一人ひとりの「やりたい」「挑戦したい」という意欲を、会社の力に変えていく。副業・兼業制度は、その仕組みの一つです。中国・四国の企業が、社員の可能性を最大限に引き出す組織づくりを進めていかれることを願っています。
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