
中国・四国でUIターン人材を採用するための人事戦略——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
中国・四国でUIターン人材を採用するための人事戦略——中国・四国で人事に取り組む方へ
「地元に帰りたい気持ちはあるんですけど、仕事があるかどうかが不安で」
広島出身で大阪のIT企業に就職した20代の男性が、UIターンを検討しながらも踏み切れない理由を、こんなふうに話していました。地元の企業で人事をしているBさんがこの話を聞いたのは、Uターン就職の相談会でのことです。その男性は結局、大阪に残ることを選んだ。「もう少し情報があれば」とBさんは振り返ります。
中国・四国の企業で人事に取り組む方が直面する課題は、単純な人材不足ではありません。鉄鋼・造船・製造・農業・観光業を基盤としながら、高齢化と人口減少が進む地域特性があります。こうした地域特有の文脈の中で、UIターン採用をどう考えるか——それが問われています。
UIターン採用が重要な理由——数字で見る地域の現実
島根県・鳥取県・高知県といった地域では、20代・30代の人口流出が続いており、地元採用市場だけに頼ることには構造的な限界があります。一方で、コロナ禍以降の働き方の変容により「地方移住・Uターン」に関心を持つ都市部在住者は確実に増えています。
総務省の調査でも、30代を中心に「将来的に地方移住を検討したい」という層が一定数存在することが示されています。また、地方移住支援制度を活用したUターン者の中には、都市部で培った高度な専門スキルを持つ人材も含まれており、採用できれば即戦力として機能するケースも少なくありません。
UIターン採用を本気で取り組むかどうかは、採用担当者の判断というより、経営者が「5年後の組織をどう見るか」という経営判断の問題です。それを人事担当者がデータと一緒に提示できるかどうか——そこが腕の見せどころです。
UIターン採用の3つのタイプを理解する
「UIターン採用」と一口に言っても、求職者のプロフィールや動機はさまざまです。戦略を立てる前に、自社が狙うべきターゲット像を明確にすることが重要です。
Uターン型(出身地に戻る):地元出身で都市部に出た後、Uターンを検討している層。親の介護、子育て環境、地元への愛着などが主な動機。地元への帰属意識が高い分、定着率が高いことが多い。ただし「地元に戻るタイミング」は人によって異なり、30代後半〜40代になってから動き出すケースも多い。
Iターン型(出身地以外の地方に移住):都市部から中国・四国に新たに移住することを検討している層。「自然の中で暮らしたい」「地方でのんびり働きたい」というライフスタイル志向の人が多いが、スキルレベルや仕事への期待値は個人差が大きい。採用後のミスマッチが起きやすい類型でもある。
副業・二拠点型(完全移住ではなくまず関係を作る):近年増えているのが、いきなり移住するのではなく「地域の企業と副業で関わりながら移住を検討する」という層。採用までの時間はかかるが、関係性を育てながら採用するため、入社後の定着率が高い傾向がある。「関係人口」を採用につなげる視点は、中国・四国の地方企業にとって有効なアプローチです。
なぜUIターン採用がうまくいかないのか
UIターン採用に取り組んでいるにもかかわらず成果が出ない企業の話を聞くと、いくつかの共通したパターンが浮かびます。
「移住すればわかる」という姿勢:UIターン希望者が最も不安に感じることのひとつが「移住した後の生活」です。住居、子どもの学校、医療機関へのアクセス、生活コスト——これらをあらかじめ丁寧に情報提供できる企業は、求職者に安心感を与えます。「来てみればわかります」という姿勢は、特に家族を持つ求職者には通じません。
「UIターン採用=求人票を出すだけ」という誤解:UIターン希望者は、一般の転職希望者と同じ採用チャネルを使っても届かないことが多い。ふるさと回帰支援センター(東京・大阪に拠点を置くUIターン支援機関)や、各都道府県のUターン就職相談窓口、移住関連のSNSコミュニティなど、UIターン特有のチャネルに情報を届けることが必要です。
職場のリアルを見せていない:UIターン希望者は、「移住先の会社がどんな雰囲気か」を事前にかなり気にします。採用サイトに社員の写真一枚もない、仕事内容が抽象的な言葉しか書いていない——これではイメージが持てず、応募に踏み切れません。社員インタビュー、現場の写真、1日の仕事の流れといった「リアルな情報」を積極的に発信することが有効です。
UIターン採用を成功させる実践的なステップ
ステップ1:「来てもらえる会社」の条件を整える
UIターン採用の前提として、「移住してまで働く価値のある会社かどうか」が問われます。給与水準、働き方の柔軟性、将来のキャリアパスの見通し——これらが一定のレベルにない状態でUIターン採用に投資しても、成果は出にくい。採用担当者だけでなく、経営者と「自社はUIターン希望者が選ぶ理由を持っているか」を率直に話し合うことが出発点です。
ステップ2:移住を「イベント」として支援する
採用が決まった後、移住手続きや生活立ち上げのサポートを会社側が積極的に行うことで、入社前の不安を大幅に減らせます。移住支援金の活用(島根・鳥取・高知などでは国と地方自治体の補助金あり)、社宅や家賃補助の提供、移住先での生活情報の提供——これらを「採用パッケージ」として整備している企業は、UIターン採用の成功率が高い傾向があります。
ステップ3:1回の採用で終わらせない関係づくり
UIターン採用は、採用した後の定着が重要です。「地元に帰ってきたはいいが、知り合いもいないし、職場の人間関係もなかなかできない」という孤立感を抱える移住者は少なくありません。ウェルカムランチや地域のコミュニティ紹介など、入社後の社会的つながりを支援する取り組みが、定着率を高めます。
中国・四国のUIターン採用の実例から学ぶ
愛媛県の水産加工会社では、Uターン採用を強化するにあたり、まず自社の採用サイトを全面リニューアルしました。社員5名のインタビュー記事を掲載し、仕事の内容、職場の雰囲気、移住後の生活体験を具体的に語ってもらいました。合わせて、ふるさと回帰支援センターの相談会に定期的に参加し、担当コンサルタントとの関係を構築しました。
その結果、1年目は応募が2件程度でしたが、2年目には8件に増加。最終的に2名の採用に成功し、うち1名は入社3年後には製造ラインのリーダーになっています。コストはエージェント費用ゼロで、主な投資は採用サイトのリニューアルと相談会への参加費(数十万円)のみでした。
UIターン採用の費用対効果を経営者に説明する
UIターン採用への投資を経営者に納得させるには、費用対効果の説明が有効です。
通常の中途採用で転職エージェントを使う場合、採用1名あたりの手数料は年収の30〜35%が相場です。年収350万円の採用であれば、100万円超のコストがかかります。一方、ふるさと回帰支援センターやUIターンフェアを活用した採用では、参加費は1回数万円〜数十万円程度で、採用に至ればエージェント費用はゼロです。
国・自治体の移住支援金(島根県では最大100万円、鳥取県・高知県でも同様の支援)を採用のパッケージに組み込めば、求職者にとってのUIターンのハードルを下げながら、会社側のコスト負担も抑えられます。
こうした数字を整理して提示することで、「UIターン採用は、通常採用と比べてコスト効率が良い場合がある」という主張が具体性を持ちます。
UIターン採用に取り組む前に確認したいこと
UIターン採用を始める前に、次の問いを自社で確認することを勧めます。
「UIターンして来た人材が、3年後も活躍できる職場環境になっているか」——これが整っていない状態でUIターン採用を強化しても、定着しないまま採用コストが消えていくだけになりかねません。
採用担当者が一人で全部やろうとしないことも大切です。移住支援や生活サポートは地域の支援機関・行政と連携する、UIターン経験者の社員を採用広報の顔にする、地元大学のキャリアセンターと情報交換する——こうした外部との協力体制が、UIターン採用の質を高めます。
UIターン採用と「関係人口」の活用
完全移住を前提としないUIターン採用の入り口として、「関係人口」の概念が注目されています。地域に移住はしないが、その地域に定期的に関わり続ける人材——副業・プロボノ・ボランティア参加など、距離を保ちながら関与する人たちです。
愛媛の食品メーカーでは、首都圏在住のマーケターを副業として採用し、1年間一緒に仕事をした後、そのまま正社員として移住・採用につながった事例があります。「いきなり移住するのは怖い」という人材に対して、「まず関わってみる」という入り口を作ることが、UIターン採用の前段として機能します。
副業解禁・リモートワークの普及が後押しとなり、地方企業が都市部の人材と関係を作るチャンスは広がっています。関係を先に作り、採用は後からついてくる——この順序でUIターン採用を設計することが、ミスマッチを防ぎながら優秀な人材を獲得する方法のひとつです。
UIターン採用に取り組む前に確認したい問い
UIターン採用を強化する前に、次の問いに答えてみてください。
「移住してきた人材が3年後も活躍できる職場環境になっているか」——組織の受け入れ体制、評価の公平性、キャリアの見通し、地域コミュニティへのアクセス支援。これらが整っていない状態では、UIターン採用にどれだけ投資しても定着率は上がりません。
採用担当者が一人で全部担おうとしないことも重要です。地域の移住支援窓口・ハローワーク・UIターン経験のある社員・地元大学のキャリアセンター——外部と積極的に連携することで、採用活動の質と効率が上がります。
「中国・四国に帰りたい」という気持ちに応える
地元を出た人が「帰りたい」と思う感情は、キャリアの動機として非常に強いものです。家族の近く、見慣れた風景、地元のコミュニティ——それらに戻りたいという気持ちは、都市部では作れない「地域企業だけが持てる強み」です。
その強みを採用の言葉に変え、適切なチャネルで届け、受け入れ体制を整える——これが、UIターン採用を事業の力にする人事戦略の全体像です。
地方企業だからこそできる採用がある。その可能性を、中国・四国の人事担当者自身が信じることが、UIターン採用を機能させる最初の一歩です。
UIターン採用の成果をどう測るか
UIターン採用に取り組み始めたとき、「成果が出ているかどうか」をどう判断するかは重要な問いです。採用人数だけを追っても、早期離職が多ければ意味がない。逆に採用できなくても、「認知度が上がった」「UIターン希望者の問い合わせが来るようになった」という段階的な成果もあります。
UIターン採用の進捗を評価するための指標として、以下が参考になります。
認知段階:採用サイトへのアクセス数・UIターン関連キーワードでの流入数・UIターン就職フェアでの名刺交換数 関心段階:会社説明会への参加者数・UIターン希望者からの問い合わせ件数・副業マッチングへの参加者数 採用段階:UIターン採用者数・採用コスト(エージェント不使用の場合のコスト削減効果) 定着段階:UIターン採用者の1年後定着率・3年後定着率
これらをダッシュボードとして経営者に提示することで、UIターン採用への投資判断を継続的に支援できます。
地域との「共創」がUIターン採用を強化する
UIターン採用で強みを持つ企業の多くは、会社単独ではなく地域全体との共創によって採用力を高めています。
地元の商工会議所・観光協会・地域おこし協力隊・移住支援NPOとの連携を通じて、「この地域で働く・暮らす魅力」を複数の視点から発信する取り組みが、企業単独の採用広報よりも大きな効果を生むことがあります。
「この会社で働きたい」から「この地域に住みたい」、そして「この会社が候補に入った」という順序でUIターン希望者が動くことも多い。地域の魅力を高めることへの貢献が、長期的な採用力の向上につながります。
「事業を伸ばす人事」を中国・四国から
UIターン採用は、「地方は人材が来ない」という固定観念を崩すひとつの入り口です。動機を持った人材が地域に戻ってくる流れを作るために、人事担当者にできることは思った以上にたくさんあります。
採用の仕組みを整え、情報を発信し、移住後のサポートを丁寧に行う——その積み重ねが、地域の産業を支える組織を作ることにつながります。地方で人事に取り組むことの意義は、採用数字の達成だけに留まりません。
もっと深く学びたい方へ
体系的に人事の実践知を身につけたいなら、人事のプロ実践講座へ。
日々の悩みを仲間と共有したい方は、人事図書館へ。
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