
広島の自動車関連企業が技術者確保のために取り組む採用ブランディング——中国・四国で人事に取り組む方へ
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広島の自動車関連企業が技術者確保のために取り組む採用ブランディング——中国・四国で人事に取り組む方へ
「マツダがあるから広島は自動車の街だ」という認識は、広島で働く方にとっては当たり前のことかもしれません。しかし、その「当たり前」が採用において武器になっているかと聞かれると、言葉に詰まる人事担当者は少なくないのではないでしょうか。
広島県内のある自動車部品メーカーで人事を担当しているBさんから、こんな話を聞きました。大手完成車メーカーの一次サプライヤーとして安定した受注を続けている会社で、技術力は業界内でも高い評価を受けている。にもかかわらず、ここ数年、中途採用で技術者を採ろうとしても応募が集まらない。求人サイトに掲載しても、東京や名古屋の自動車関連企業に人材を取られてしまう。「うちの技術は負けていないのに、なぜ選ばれないのか」というBさんの問いが、この記事の出発点です。
私はこれまで500社以上の企業で人事の課題に向き合ってきましたが、広島の自動車関連企業が抱える採用課題には、地域特有の構造が見えます。技術力はある、事業は安定している、働く環境も悪くない——なのに「選ばれない」。この問題の根っこにあるのは、技術や待遇の問題ではなく、「知られていない」という採用ブランディングの課題です。
広島の自動車産業が直面する採用環境の変化
広島県は、マツダを頂点とする自動車産業の集積地です。部品メーカー、金型メーカー、表面処理業、検査機器メーカーなど、数百社がサプライチェーンを構成しています。この産業集積は広島経済の強みであると同時に、採用市場においては「似た会社が多すぎて差別化が難しい」という独特の課題を生んでいます。
求職者の視点で考えてみてください。転職サイトで「広島 自動車 技術者」と検索すると、同じような業種・規模の会社が並びます。どの会社も「自動車部品の設計・開発」「品質管理」と書いてあり、給与も似たような水準。求職者にとっては「どの会社も同じに見える」状態です。
さらに、自動車産業のEV化・CASE対応という技術転換が進む中で、求められるスキルが変わりつつあります。従来の機械系エンジニアだけでなく、電気・電子・ソフトウェアの技術者が必要になっている。ところが、そうしたスキルを持つ人材は全国的に奪い合いの状態であり、「広島の中小部品メーカー」という看板だけでは勝負になりません。
2023年の広島県の有効求人倍率は全国平均を上回り、技術職に限ると2倍を超える水準が続いています。つまり、求職者が「選べる立場」にある。この現実を直視することが、採用ブランディングの第一歩です。
「技術力がある」だけでは選ばれない理由
広島の自動車関連企業の人事担当者から、「うちは技術力が高い」「大手からも信頼されている」という話をよく聞きます。それは事実でしょう。しかし、その技術力は求職者に伝わっているでしょうか。
ある金型メーカーの事例を紹介します。この会社は、自動車ボディパネルの金型製造において国内トップクラスの技術を持っていました。しかし採用サイトを見ると、「金型の設計・製造」としか書いていない。何がトップクラスなのか、どんな技術的チャレンジがあるのか、エンジニアとしてどんな経験が積めるのかが一切伝わらない状態でした。
技術者が転職先を選ぶとき、「そこで自分の技術が伸びるか」「面白い仕事ができるか」という観点が非常に重要です。給与や福利厚生は当然見ますが、それだけで転職を決める技術者は多くありません。自分のスキルが活かせるか、新しい技術に触れられるか、チームの技術レベルが高いか——こうした「技術者としての成長環境」が、選社の重要な基準になります。
ところが多くの中小企業は、この「技術者が知りたい情報」を発信できていない。製品の写真と一般的な仕事内容だけの採用ページでは、技術者の心は動きません。これは情報の出し惜しみではなく、「何を伝えればいいか分からない」という採用ブランディングの知見不足が原因であることが多いのです。
採用ブランディングとは何か——誤解を解く
「採用ブランディング」という言葉に対して、「うちみたいな中小企業がやるものではない」「大企業がやるおしゃれなやつでしょ」という反応を示す人事担当者は少なくありません。しかし、採用ブランディングとは、ロゴを新しくしたり、かっこいい動画を作ったりすることではありません。
採用ブランディングの本質は、「自社が何者で、どんな人と一緒に働きたいか」を明確にし、それを一貫して発信することです。言い換えれば、「自社の採用におけるメッセージの軸を作る」ということです。
広島の自動車関連企業であれば、以下のような要素が採用ブランドの軸になりえます。
「自動車産業の転換期に、一次サプライヤーとして新しい技術領域に挑戦している」「少数精鋭だからこそ、若手が早い段階から設計の上流工程に携われる」「広島という産業集積地で、同業他社との技術交流が日常的にある」——こうした事実を、求職者に伝わる言葉で表現し、採用のあらゆるタッチポイントで一貫して発信する。それが採用ブランディングです。
重要なのは、「事実に基づいていること」と「一貫性があること」です。実態と異なるイメージを発信すれば、入社後のギャップで離職を招きます。自社の強みを正直に、しかし魅力的に伝えること。それが中小企業の採用ブランディングの基本です。
経営数字から考える採用ブランディングの投資対効果
採用ブランディングに取り組もうとしても、経営者から「それにいくらかかるの?効果はあるの?」と聞かれることは避けられません。ここで数字の話ができるかどうかが、人事担当者の力量を示す場面です。
まず現状のコストを整理してみましょう。技術者の中途採用1名あたりの平均コストを考えます。求人広告費が30万円、エージェント手数料が年収の30%で120万円、面接にかかる社内工数が人件費換算で15万円——合計で1名あたり約165万円。これが年間3名の採用計画であれば、年間約500万円の採用コストです。
しかし、応募が集まらないために、採用に半年以上かかるケースが増えている。その間の機会損失——技術者が足りないことで受注を断る、納期が遅れる、既存社員に残業が集中する——これらを金額換算すると、年間数百万円から場合によっては数千万円規模の影響が出ます。
一方、採用ブランディングの初期投資はどの程度か。採用サイトのリニューアルに100〜300万円、社員インタビュー動画の制作に50〜100万円、技術ブログの定期発信は社内リソースで回せば実質コストはゼロに近い。初年度の投資が200〜400万円程度だとして、これによって採用の母集団が1.5倍になり、エージェント依存度が下がれば、2年目以降の採用コスト削減効果で十分に回収できます。
この試算を経営者に提示することで、「採用ブランディングは経費ではなく投資である」という合意を得やすくなります。人事が経営の言語で話すとはこういうことです。
広島の自動車関連企業が実践できる5つの取り組み
具体的に何をすればいいのか。広島の自動車関連企業の文脈で実践しやすい取り組みを5つ整理します。
1. 技術ストーリーの可視化
自社が持つ技術の「面白さ」を言語化し、外部に発信する。たとえば、「この金型はプレス機で0.01mm単位の精度が求められる。なぜその精度が必要かというと……」という具体的な技術エピソードを、採用サイトやSNSで紹介する。技術者は技術の話に反応します。求人票の「金型設計」という一般的な表現を、「0.01mm精度の金型設計」に変えるだけで、興味を持つ技術者の層が変わります。
2. エンジニア社員の「声」の発信
技術者が転職を考えるとき、「そこでどんな人と働くのか」は大きな関心事です。社員インタビューを掲載する企業は増えていますが、技術者向けには「どんな技術的課題に取り組んでいるか」「自分の技術がどう成長したか」「チームの雰囲気はどうか」という技術者目線の情報が必要です。営業職向けのインタビューとは観点を変える必要があります。
3. 地域産業の一員としてのポジショニング
広島の自動車産業は、一社だけで完結するものではありません。OEMと一次・二次サプライヤーが密接に連携する「産業エコシステム」の中で仕事をしている。この文脈を伝えることで、「広島で自動車関連の仕事をする意味」が求職者に伝わります。「マツダと一緒に次世代のEV部品を開発している」「呉市の造船技術が自動車のボディ設計に活かされている」——こうした地域産業の文脈は、他の地域にはない広島独自の魅力です。
4. インターンシップ・工場見学の戦略的活用
中途採用だけでなく、長期的な採用ブランディングとして、地元の工業高校・高専・大学との接点を増やすことが有効です。単なる工場見学ではなく、「この技術がどう自動車の安全性に貢献しているか」というストーリーを添えた体験プログラムにすることで、学生の記憶に残ります。広島県内のある表面処理メーカーでは、広島大学工学部の学生を対象にした2週間のインターンプログラムを3年前から実施し、参加者の約20%が卒業後に同社を志望するようになったと聞きます。
5. 技術コミュニティとの接続
広島には、自動車関連の技術者が集まるコミュニティや勉強会が存在します。こうした場に自社の技術者を登壇させたり、技術発表の場を自社で提供したりすることで、「あの会社の技術者は面白い仕事をしている」という認知を業界内で獲得できます。採用広告よりも信頼性の高い情報が、自然と広がっていく仕組みです。
事例:広島の自動車部品メーカーが採用ブランディングで変わった話
広島市安佐北区にある従業員80名の自動車部品メーカーの事例を紹介します。プレス加工を主力とするこの会社は、3年前まで中途の技術者採用に年間300万円以上かけても、1名も採用できない年がありました。
人事担当者のCさんが最初に取り組んだのは、「自社の技術の棚卸し」でした。製造現場の技術者に「うちの技術で一番すごいところは何か」と聞いて回った。すると、「ハイテン材(高張力鋼板)のプレス加工で、業界でも珍しい深絞り技術を持っている」という話が出てきました。社内では当たり前になっていた技術が、実は市場価値の高いものだった。
次に、この技術を軸にした採用メッセージを作りました。「ハイテン材の深絞りに挑む。自動車の軽量化を支える技術がここにある」——このコピーを採用サイトのトップに掲げ、技術者が深絞り工程を解説するブログ記事を月1回のペースで発信し始めました。
結果、採用サイトへのアクセス数が6ヶ月で3倍になりました。求人媒体からの直接応募も増え、「深絞り技術に興味がある」という動機で応募してくる技術者が出始めた。エージェント経由の採用比率が80%から40%に下がり、採用コストは年間で約150万円削減できました。
Cさんが強調していたのは、「特別なことをしたわけではない。自社の技術を正直に、具体的に伝えただけだ」ということです。
EV化・CASE時代の採用ブランディング
自動車産業は今、100年に一度の転換期にあると言われています。EV化、自動運転、コネクテッド、シェアリング——いわゆるCASEのトレンドが、サプライチェーン全体に変革を迫っています。
広島の自動車関連企業にとって、この変化は脅威であると同時に、採用ブランディングの新たな材料でもあります。「EV化に対応した新しい部品開発に挑戦している」「自動運転に必要なセンサー部品の精密加工に取り組んでいる」——こうした「変革に挑んでいる姿」は、技術者にとって魅力的な情報です。
逆に、「従来の内燃機関向け部品しか作っていない」「新しい技術に対応する計画がない」という企業は、技術者にとって「将来性が不安」と映ります。これは採用ブランディング以前の問題であり、事業戦略そのものに関わることです。
人事担当者が「事業の将来性」と「採用メッセージ」を結びつけて考えることで、経営者との対話の質も変わります。「CASE対応の技術開発に投資することが、採用力にも直結する」という提案は、人事と経営の接点を作るきっかけになります。
採用ブランディングの「継続」が最も難しい
採用ブランディングの取り組みで最も難しいのは、「始めること」ではなく「続けること」です。多くの企業が、採用サイトをリニューアルした直後は情報発信に力を入れますが、半年もすると更新が止まってしまう。
この問題の原因は、採用ブランディングが「人事担当者個人の努力」に依存していることにあります。日常業務の合間にブログを書き、社員インタビューを企画し、SNSを更新する——これを一人で続けるのは無理があります。
継続するための仕組みとして有効なのは、以下の3点です。
まず、技術者自身に発信を担ってもらうこと。月1回、30分のインタビューに答えてもらい、それを人事が記事にまとめる。技術者にとっては「自分の仕事を言語化する機会」になり、人事にとってはコンテンツの素材が安定的に確保できます。
次に、発信のスケジュールを年間で決めておくこと。「毎月第2水曜に技術ブログを公開」「四半期に1回、社員インタビュー動画を公開」というルールを決めてしまえば、計画的に進められます。
最後に、経営者に成果を定期的に報告すること。採用サイトのアクセス数、応募数の推移、採用コストの変化——これらを月次で経営者に共有することで、「この取り組みは効果がある」という認識が経営層に浸透し、継続のための予算や人員が確保しやすくなります。
名古屋・東京との人材獲得競争をどう戦うか
広島の自動車関連企業にとって、名古屋(トヨタ系)と東京(ホンダ・日産系)は、技術者獲得における最大の競合地域です。給与水準だけを見れば、広島は名古屋・東京より低い傾向にあります。この「給与ギャップ」を正面から埋めようとしても限界があります。
では何で差別化するのか。いくつかの視点を整理します。
「裁量の大きさ」で差別化する:大手完成車メーカーでは、技術者一人が担当するのは部品の一部分であることが多い。一方、広島の中小サプライヤーでは、部品の設計から試作、量産準備まで一人の技術者が一貫して携われるケースがあります。「技術の全体像が見える仕事」は、特に20代後半〜30代前半の技術者にとって魅力的です。
「生活の質」で差別化する:広島市内から車で30分以内に自然豊かな環境がある。通勤時間が名古屋・東京より短い。住居費が安い。子育て環境が充実している——こうした「生活の質」を採用メッセージに組み込むことで、ライフステージの変化を考えている技術者にアプローチできます。
「技術者の顔が見える規模感」で差別化する:大手企業では、社員数が多すぎて「自分の存在感が薄い」と感じる技術者がいます。80名、100名規模の会社であれば、自分の仕事が会社の業績にどう貢献しているかが実感しやすい。この「自分の仕事の手応え」を伝えることが、中小企業の採用における強みです。
人事担当者が「技術を理解する」ことの重要性
採用ブランディングにおいて、人事担当者が自社の技術を理解していることは決定的に重要です。技術者との面接で、「うちの技術のどこに興味がありますか」と聞いておきながら、相手の回答の意味が分からないようでは、技術者からの信頼は得られません。
これは技術者になれという話ではありません。「自社の技術の概要と、それが市場でどういう価値を持つか」を理解する程度で十分です。製造現場を定期的に見学する、技術者に「今取り組んでいる仕事の面白さを教えてください」と質問する、業界の技術動向を最低限フォローする——こうした小さな積み重ねが、技術者に寄り添った採用コミュニケーションを可能にします。
広島の自動車関連企業のある人事担当者は、月に一度、製造現場で半日を過ごす習慣をつけたそうです。最初は「人事が何しに来たんだ」と怪訝な顔をされたが、続けるうちに技術者が自分の仕事について話してくれるようになった。その話が採用サイトのコンテンツになり、面接での会話の質も上がったと言います。
採用ブランディングは「組織の鏡」である
最後に伝えたいのは、採用ブランディングは単なるマーケティング手法ではなく、「組織の状態を映す鏡」であるということです。
「自社の魅力を発信しようとしたが、何も思いつかない」——もしそうなら、それは発信力の問題ではなく、組織そのものに魅力が不足している可能性があります。技術者が「この会社の仕事は面白い」と感じていなければ、どんなに美しい言葉で飾っても、採用ブランディングは機能しません。
逆に、社員が自分の仕事に誇りを持ち、「この会社に来てよかった」と感じている組織は、自然と外部からの評価も高くなります。採用ブランディングの最強の施策は、「社員が誇りを持てる組織を作ること」です。これは人事制度・評価制度・育成環境・マネジメントの質——すべてが関わる組織全体の課題であり、人事担当者が最も力を発揮できる領域でもあります。
広島の自動車関連企業で技術者の採用に苦戦している方へ。「技術力がある」という自負を、外に伝わる形に変換すること。それが採用ブランディングの出発点です。そして、その作業を通じて見えてくる組織の課題を、経営者と一緒に解決していくこと。それが、事業を伸ばす人事の仕事です。
「採用ブランディングの効果測定」を忘れない
採用ブランディングに取り組む際に見落とされがちなのが、効果測定の設計です。「なんとなく応募が増えた気がする」では、経営者に継続投資の判断材料を提供できません。
測定すべき指標は大きく3つあります。第一に、採用サイトへのアクセス数と応募数の推移。第二に、応募者の「応募理由」の内容変化。第三に、採用単価(1名あたりの採用コスト)の推移です。
特に「応募理由」の内容変化は重要です。「求人サイトで見つけた」から「御社の技術ブログを読んで興味を持った」に変わってきたら、ブランディングの効果が出始めている証拠です。この変化を経営者に伝えることで、「採用ブランディングは投資として機能している」という認識が定着します。
事業の数字と人事施策をつなげて考える。この視点を持つことで、採用ブランディングは「なんとなく良さそうなこと」から「経営判断の対象」へと格上げされます。
もっと深く学びたい方へ
体系的に人事の実践知を身につけたいなら、人事のプロ実践講座へ。
日々の悩みを仲間と共有したい方は、人事図書館へ。
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