
四国の中小企業がUターン・Iターン人材の定着率を高める方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
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四国の中小企業がUターン・Iターン人材の定着率を高める方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
「せっかくUターンで採用したのに、2年で辞められてしまった」。愛媛県のある造船関連企業の人事担当者Fさんの言葉です。
Fさんの会社では、3年前からUIターン採用に力を入れ始めました。移住支援金の活用、UIターンフェアへの出展、採用サイトの刷新——投資をして、ようやく年間2〜3名のUIターン人材を採用できるようになった。しかし、そのうちの約半数が2年以内に離職してしまう。「採れても辞める」というサイクルに、Fさんは疲弊していました。
四国4県(徳島・香川・愛媛・高知)は、いずれも人口減少と高齢化が進む地域です。地元採用だけでは人材が足りないため、UIターン採用に活路を見出す企業が増えています。しかし、「採用できた」がゴールではありません。UIターン人材が「この地域で、この会社で働き続けたい」と思える環境を整えることが、人事としての本当の仕事です。
私がこれまで500社以上の企業で見てきた経験から言えるのは、UIターン人材の定着率を高めるために必要なのは、「移住の不安を継続的に解消する仕組み」と「仕事を通じた成長実感の提供」の両方だということです。
UIターン人材が辞める本当の理由
UIターン人材の離職理由を聞くと、表面的には「仕事内容が合わなかった」「思っていたのと違った」という回答が多い。しかし、もう少し深く聞くと、以下のような構造が見えてきます。
理由1:移住後の「現実のギャップ」
UIターンを決断する段階では、地方の暮らしに対する期待が膨らんでいます。自然が豊か、通勤が楽、生活コストが安い——こうしたポジティブなイメージで移住を決めた人が、実際に暮らし始めると「買い物が不便」「子どもの習い事の選択肢が少ない」「地域の付き合いが想像以上に濃い」といった現実に直面する。
このギャップ自体は避けられません。問題は、ギャップに直面したときに「相談できる相手がいない」ことです。会社の上司や同僚に「移住して後悔している」とは言いにくい。配偶者も同じ悩みを抱えている。結果として、不満を溜め込み、都市部への再移住(Jターン)を選ぶケースが生まれます。
理由2:職場での「よそ者」感
四国の中小企業では、従業員の多くが地元出身で、長年一緒に働いてきた「顔なじみ」のコミュニティが形成されています。UIターンで入社した社員にとって、このコミュニティに入るのは容易ではありません。「方言がわからない」「昼食時の話題についていけない」「地域の行事の作法がわからない」——こうした小さなストレスが積み重なり、疎外感を生むことがあります。
理由3:キャリアの見通しが立たない不安
都市部から四国に移住してきた人材は、「この会社でキャリアを積んで、将来どうなるのか」という不安を抱えていることが多い。都市部であれば転職の選択肢が多く、キャリアの方向修正が比較的容易です。しかし四国では転職市場が小さく、「この会社を辞めたら、地域内に次の選択肢がない」という閉塞感を感じやすい。
この不安に対して、「この会社でどんなキャリアが描けるか」を具体的に示すことが、定着率向上の鍵になります。
定着率を「経営数字」で考える
UIターン人材の定着率改善を経営者に提案する際、「人を大切にすることは大事です」という抽象論では動きません。数字で示す必要があります。
UIターン採用1名あたりのコストを試算してみましょう。求人広告・UIターンフェア出展費が年間50万円(按分)、移住支援関連の費用が30万円、面接の交通費負担が10万円、入社後の研修コストが50万円——合計で約140万円。これに加えて、採用活動にかかる人事担当者の工数が年間約300時間、時給換算で約60万円。つまり、1名採用するのに約200万円のコストがかかっています。
この人材が2年で離職した場合、200万円の採用コストに加えて、2年間の育成投資(約200万円)、代替採用のコスト(約200万円)、離職期間中の生産性低下(約150万円)——合計で約750万円の損失です。
定着率を50%から80%に改善できれば、年間3名採用のうち離職が1.5名から0.6名に減り、年間で約700万円のコスト削減につながります。この数字を経営者に示すことで、「定着率改善に投資する合理性」が説得力を持ちます。
入社前の「期待値調整」が定着の土台を作る
UIターン人材の定着率を高めるために最も重要なことのひとつは、入社前の段階で「現実」を正直に伝えることです。
多くの企業が、UIターン採用の場面で「地方の良いところ」を強調しすぎる傾向があります。自然が豊か、人が温かい、生活コストが安い——確かにその通りですが、「不便なところ」「大変なところ」も同時に伝えなければ、入社後のギャップが大きくなります。
香川県のあるIT企業では、UIターン候補者に対して「正直トーク」という面談を設けています。現役のUIターン社員が参加し、「移住して良かったこと」だけでなく「移住して困ったこと」「慣れるまでに時間がかかったこと」も率直に話す。候補者はこの面談を通じて「リアルなイメージ」を持った上で入社を決断するため、入社後のギャップが小さくなり、定着率が大幅に改善したそうです。
「正直に伝えたら辞退されるかもしれない」という不安はわかります。しかし、現実を知った上で入社を決めた人材は、知らずに入社した人材よりもはるかに定着しやすい。短期的な採用数より、長期的な定着率を重視する判断が必要です。
入社後90日間の「オンボーディング」を設計する
UIターン人材の定着において、入社後の最初の90日間は極めて重要です。この期間に「この会社で、この地域でやっていける」という感覚を持てるかどうかが、その後の定着を大きく左右します。
UIターン人材のオンボーディングでは、通常の新入社員受け入れに加えて、「生活面の支援」が必要です。
最初の2週間:「生活の基盤」を整える
住居の手続き、役所での届出、銀行口座の開設、病院の情報、スーパーの場所——移住したばかりの人にとって、こうした生活インフラの情報は切実に必要です。会社として「生活ガイド」を作成し、先輩UIターン社員がメンターとして生活面の相談に乗る体制を整えます。
最初の1ヶ月:「職場への適応」を支援する
仕事の進め方だけでなく、「この会社のコミュニケーションの流儀」「地域のビジネス慣習」といった暗黙のルールを丁寧に伝える。四国の中小企業では、お客さんとの関係が都市部以上に密接であることが多く、「地域の人間関係」を理解することが仕事を円滑に進めるために重要です。
最初の3ヶ月:「成長の手応え」を実感させる
入社3ヶ月の時点で、「この会社で自分は成長できている」という実感を持てるかどうかが、定着の分岐点になります。上司との定期的な面談、具体的なフィードバック、小さな成功体験の機会——これらを意図的に設計することで、「ここでやっていける」という自信が生まれます。
「メンター制度」をUIターン人材向けに活用する
UIターン人材の定着支援として、最も効果的な仕組みのひとつが「メンター制度」です。ただし、一般的なメンター制度をそのまま適用するのではなく、UIターン人材の特性に合わせたカスタマイズが必要です。
仕事面のメンターと生活面のメンターを分けることが有効です。仕事面のメンターは直属の先輩社員、生活面のメンターは同じくUIターンで入社した社員が担当する。生活面のメンターは、「移住してから困ったこと」「慣れるまでにかかった時間」「おすすめの休日の過ごし方」といった、仕事とは関係ない話ができる相手です。
高知県のある建設会社では、UIターン社員同士の「UIターン会」を月1回開催しています。仕事の話は一切なしで、「最近見つけた美味しい店」「子どもの学校の話」「地域の行事に参加した感想」といった生活の話をする場です。「同じ境遇の仲間がいる」という安心感が、定着率の向上に大きく寄与しているそうです。
四国の地域特性を活かした「働く魅力」の設計
四国には、都市部にはない「働く魅力」があります。その魅力を意識的に「人事施策」として設計することが、UIターン人材の定着率を高めます。
自然環境を活かした福利厚生
高知県の太平洋側ではサーフィン、愛媛県のしまなみ海道ではサイクリング、香川県では讃岐うどんの食べ歩き、徳島県では阿波踊り——四国の自然や文化を楽しむための「アクティビティ休暇」や「地域体験プログラム」を福利厚生に組み込む企業が出てきています。
これは単なる福利厚生ではなく、「この地域で暮らすことの価値」を実感してもらう仕組みです。UIターンで来た社員が四国の魅力を体感することで、「この地域に来てよかった」という気持ちが強化されます。
地域への貢献実感
都市部の大企業では「自分の仕事が社会に与える影響」を感じにくいことがあります。一方、四国の中小企業では、自社の製品やサービスが地域の暮らしに直結していることが多い。愛媛の造船業は瀬戸内海の物流を支え、香川の食品メーカーは地元の食文化を守り、高知の林業は山の環境を維持しています。
「自分の仕事が地域に貢献している」という実感は、UIターン人材にとって大きなモチベーション源になります。この実感を意識的に伝える機会——たとえば地域のイベントへの参加、お客さんからの感謝の声の共有、地域メディアでの紹介——を設計することが重要です。
配偶者・家族の満足度が定着率を左右する
UIターン人材の定着率に最も大きな影響を与える要因のひとつが、配偶者・家族の満足度です。本人が仕事に満足していても、配偶者が「帰りたい」と言い出せば、離職につながります。
配偶者の就職支援、子どもの教育情報の提供、地域のコミュニティへの紹介——企業がここまで踏み込むことに違和感を感じる方もいるかもしれません。しかし、UIターン採用は「個人の転職」ではなく「家族の移住」です。家族全体の満足度を支援しなければ、定着は実現しません。
愛媛県今治市のあるタオルメーカーでは、UIターン社員の家族向けに年2回の「家族感謝祭」を開催しています。会社の見学、社員との交流、地域の観光スポット巡り——家族が「この会社で働いていることを誇りに思える」環境を作ることで、家庭内での「帰ろうか」という会話を減らす効果があるそうです。
定着率改善は「仕組み」で解決する
UIターン人材の定着率改善は、「個別の対応」ではなく「仕組み」で解決することが重要です。特定の人事担当者の個人的な配慮に依存していては、担当者が変わったときに崩壊します。
オンボーディングプログラムの標準化、メンター制度の運用マニュアル、定期面談のスケジュール化、UIターン社員のコミュニティ運営——これらを制度として確立し、誰が担当しても同じ品質のサポートが提供できる状態を目指す。
この仕組みを構築するコストは、UIターン人材の離職によって失われるコストと比較すれば、はるかに小さい。定着率改善は「人の温かさ」だけでは持続しません。温かさを「仕組み」に乗せることで、組織として継続的な定着支援が可能になります。
長期的な視点でUIターン採用を捉える
UIターン採用は、短期的なコストを見ると「割に合わない」と感じることがあるかもしれません。しかし、10年後の組織を考えたとき、地域外から多様な経験を持つ人材を継続的に受け入れることは、組織の活力を維持するために不可欠です。
UIターンで入社した人材は、都市部での就業経験、異なる業界での知見、外部から見た地域の魅力と課題——こうした「外部の視点」を組織に持ち込んでくれます。この多様性が、組織のイノベーションやサービスの改善につながる。
四国の中小企業で人事に取り組む方へ。UIターン人材の採用は始まりに過ぎません。「この地域で、この会社で働き続けたい」と思ってもらえる組織を作ること。それが、人口減少時代の四国で事業を続けていくための、最も確かな投資です。
もっと深く学びたい方へ
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