
中国・四国の企業が経営数字から人事戦略を組み立てる実践アプローチ——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
中国・四国の企業が経営数字から人事戦略を組み立てる実践アプローチ——中国・四国で人事に取り組む方へ
「人件費率が上がっているんだけど、どうにかならないか」。経営者からこう言われたとき、あなたはどう答えますか。
「コスト削減を検討します」と答える人事担当者と、「人件費率が上がっている要因を分析した上で、事業成長との関係を整理してからご提案させてください」と答える人事担当者がいます。経営者が信頼するのは、後者です。
広島のある機械メーカーの人事担当者Lさんは、経営者から「人件費が膨らんでいる」と指摘されたとき、以下のように応えました。「人件費の総額は確かに前年比8%増です。しかし、一人あたり売上高は12%増加しています。つまり、人件費は増えていますが、それ以上に一人ひとりの生産性が上がっている。人件費増の主因は昨年の中途採用3名の人件費で、この3名がフル稼働する来期には、一人あたり売上高はさらに向上する見込みです」。経営者の表情が変わったそうです。
この記事のテーマは、「経営数字から人事戦略を組み立てる」というアプローチです。人事の仕事を「制度を作る」「採用をする」「研修を企画する」といった個別業務の集合ではなく、「事業を伸ばすための経営機能」として捉え直す。そのための「経営数字」という共通言語の使い方を整理します。
私がこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきた経験から確信しているのは、「数字で語れる人事」は経営者から信頼され、より大きな仕事を任される、ということです。これは企業規模を問わず、中国・四国の中小企業でも同じです。
なぜ「経営数字から人事を考える」のか
人事の仕事は、ともすると「人のため」「社員のため」という文脈で語られがちです。もちろん、人を大切にすることは人事の根幹です。しかし、「人のために」だけを理由にした施策は、経営者に通りにくい。
経営者が考えているのは、「この会社をどう存続させ、成長させるか」です。そのために必要な「人」の問題に向き合うのが経営者の仕事であり、その問題を解決する専門家が人事担当者です。
経営者の言語は「数字」です。売上、利益、コスト、投資対効果——この言語で人事の課題を語れるかどうかが、人事担当者と経営者の対話の質を決めます。
「離職率が高いので対策が必要です」よりも、「離職率20%による年間損失額は約1,500万円です。この損失を年間200万円の投資で半減できるとすれば、3年間で3,000万円以上のコスト削減につながります」——後者の方が、経営者は判断しやすい。
人事が押さえるべき7つの経営指標
人事担当者が最低限理解しておくべき経営指標を7つ紹介します。すべてを完璧に使いこなす必要はありませんが、「経営者がどんな数字を見ているか」を知ることが、対話の質を上げる第一歩です。
1. 売上高人件費率
人件費÷売上高×100。この数値が業界平均と比べてどうか、過去3年間でどう推移しているかを把握する。人件費率が上がっていても、一人あたり売上高が伸びていれば問題ありません。逆に、人件費率が下がっていても、それが人材への投資不足(給与が低い、研修費が少ない)によるものであれば、中長期的にはリスクです。
2. 一人あたり売上高(労働生産性)
売上高÷従業員数。この数値が人事施策の効果を測る基本指標です。採用・育成・評価制度の改善は、最終的にこの数値に反映されます。
3. 一人あたり人件費
人件費(給与+賞与+社会保険料+福利厚生費)÷従業員数。この数値と一人あたり売上高のバランスを見ることで、「人材への投資が適切か」を判断できます。
4. 離職率
年間離職者数÷年初在籍者数×100。全体の離職率だけでなく、「入社3年以内の離職率」「部署別の離職率」「年代別の離職率」を細分化して見ることで、問題の所在が特定できます。
5. 採用単価
採用にかかった総コスト÷採用人数。求人広告費、エージェント手数料、面接にかかる人件費、採用関連の交通費——これらを合算して、1名あたりの採用コストを算出する。
6. 一人あたり教育研修費
教育研修の総費用÷従業員数。この数値が極端に低い場合、「人材への投資不足」の可能性があります。中小企業では年間1人あたり2〜5万円程度が目安ですが、業界や成長フェーズによって適正値は異なります。
7. 有給休暇取得率
取得日数÷付与日数×100。この数値は「働きやすさ」の指標であると同時に、「人員の余裕度」の指標でもあります。取得率が低い場合、人員が不足している可能性があり、その状態が続けば離職リスクが高まります。
経営数字から人事課題を特定する実践ステップ
これらの指標を使って、自社の人事課題を特定する実践的なステップを紹介します。
ステップ1:数字を「見える化」する
まず、上記7つの指標を過去3年分で整理します。エクセルで十分です。数値の推移を時系列で並べることで、「何が改善しているか」「何が悪化しているか」が見えてきます。
中国・四国のある建設会社の人事担当者は、このステップを実施した結果、「一人あたり売上高は横ばいだが、人件費率が年々上がっている」ことを発見しました。掘り下げると、「ベテランの昇給が継続している一方、若手の採用が進まず組織の年齢構成が高齢化している」ことが原因でした。
ステップ2:数字の「背景」を分析する
数字だけを見て判断するのは危険です。数字の背景にある「なぜ」を分析することが重要です。
離職率が上がっている→なぜか→特定の部署で集中している→なぜか→その部署のマネジメントに問題がある——というように、「なぜ」を繰り返して根本原因に迫ります。
ステップ3:課題に優先順位をつける
すべての課題を同時に解決することはできません。「事業への影響度」と「改善の実現可能性」の2軸で優先順位をつけます。
影響度が大きく、実現可能性が高いもの(たとえば「特定部署の離職率改善のための管理職研修」)から着手し、影響度は大きいが実現に時間がかかるもの(たとえば「評価制度の全面再設計」)は中期的な計画に組み込む。
ステップ4:施策を「投資」として設計する
各施策について、「コスト」と「期待される効果(金額換算)」を試算し、投資計画として整理する。「この施策に○○万円かけると、○○の効果が見込まれ、△△年で投資回収できます」——この形式で経営者に提案します。
中国・四国の企業で実践した「数字起点の人事改革」事例
事例1:広島の自動車部品メーカー(従業員120名)
人事担当者が離職率のデータを部署別・年代別に分析したところ、「製造3課の入社3年以内の離職率が40%と突出して高い」ことが判明しました。原因を調査すると、製造3課の課長が「新人には厳しく接して鍛える」という方針を持っており、新人が萎縮していることがわかりました。
人事担当者は、「製造3課の離職コストは年間約600万円。課長のマネジメント研修と配属後のフォロー体制整備に100万円投資すれば、離職率を半減できる可能性がある」と提案。経営者の承認を得て実行した結果、翌年の離職率は40%から15%に改善しました。
事例2:香川の食品メーカー(従業員60名)
一人あたり売上高が3年連続で低下傾向にありました。人事担当者が分析したところ、原因は「多能工化が進んでおらず、特定の工程に人が偏っている」ことでした。
「多能工化プログラムを導入し、3つ以上の工程を担当できる社員を50%にすれば、生産ラインの柔軟性が向上し、一人あたり売上高を10%改善できる」と試算。スキルマップの整備と計画的なジョブローテーションを実施した結果、2年後に一人あたり売上高が8%改善しました。
事例3:島根の建設会社(従業員40名)
採用単価が1名あたり200万円と高止まりしていました。原因を分析すると、人材紹介会社への依存度が80%と高く、自社の採用力が育っていないことがわかりました。
人事担当者は「自社採用サイトの強化と地元高校・高専との関係構築に年間100万円投資することで、3年後にエージェント依存度を30%まで下げ、採用単価を100万円に半減できる」と提案。3年計画で実行し、現在は採用単価が120万円まで下がっています。
人事が「経営会議」に参加する意味
中国・四国の中小企業では、人事担当者が経営会議に参加していないケースが多い。しかし、人事戦略を経営戦略と連動させるためには、経営会議での情報共有が不可欠です。
経営会議で「来期は新規事業を立ち上げる」という方針が決まったとき、人事が「その事業に必要な人材はどんな人か」「採用にはどのくらいの期間とコストがかかるか」「既存社員の中に適任者はいるか」をすぐに考え始められるかどうか。この「経営の意思決定と人事施策のタイムラグ」をどれだけ短縮できるかが、組織の機動力を左右します。
経営会議への参加が難しい場合でも、月1回、経営者と30分の「人事ミーティング」を設けるだけで、情報の非対称性は大きく解消されます。
「経営数字を知っている人事」が地域の企業を変える
中国・四国の中小企業で「経営数字から人事戦略を組み立てる」人事担当者が増えていくことは、個別の企業を超えた意味を持ちます。
経営と人事が連動している企業は、限られた資源の中で最大の効果を出せる。人材が定着し、育ち、事業が成長する好循環が生まれる。そうした企業が地域に増えていくことで、「この地域には良い企業がある」という評判が広がり、UIターン人材の流入にもつながる。
経営数字は、人事の仕事を「感覚の世界」から「判断可能な世界」に引き上げるツールです。数字に苦手意識がある方も、まずは売上高人件費率と離職率の2つだけを追いかけてみてください。その2つの数字を見続けるだけで、自社の人事課題が見えてきます。
人事が「経営の言語」を使いこなすために
最後に、人事担当者が経営数字を扱えるようになるための実践的なアドバイスをまとめます。
月次の経営データに触れる習慣をつける:売上、営業利益、人件費——月次の数字に目を通すだけで、「今、会社はどういう状態にあるか」の感覚が養われます。最初はわからなくても、半年続ければ「数字の変化に気づく目」が育ちます。
経営者と数字の話をする機会を作る:「今期の業績はどうですか」「来期の計画で人事に影響する点はありますか」——こうした問いかけを経営者にすることで、経営者の視点を学ぶことができます。
人事施策を必ず「金額」で表現してみる:「研修をやりたい」ではなく「この研修に○○万円かけることで、○○の効果が期待できます」という表現に変える。最初は粗い試算でも構いません。「人事の仕事を金額で語る」習慣をつけることが、経営との対話の質を上げます。
同業他社のベンチマークを持つ:自社の人件費率、離職率、採用単価が「高いのか低いのか」を判断するには、業界の平均値や同業他社の水準を知る必要があります。業界団体のデータ、厚生労働省の統計、人事系メディアの調査報告——これらを定期的にチェックする習慣をつけましょう。
「事業を伸ばす人事」を中国・四国から
この記事で伝えたかったのは、「人事は経営の一部である」という考え方です。
中国・四国の中小企業で人事に取り組む方は、経営者に近い場所で仕事をしている恵まれた環境にいます。その近さを活かして、経営の数字を理解し、人事の施策を経営成果に結びつけて語る力を身につけること。それが、「事業を伸ばす人事」への道です。
数字は「冷たいもの」ではありません。数字の向こうに、一人ひとりの社員の働きがあり、その社員を支える人事の仕事がある。数字で語ることは、人事の仕事の価値を「見える化」することです。
中国・四国の企業から、経営数字を武器に事業を伸ばす人事のプロフェッショナルが、一人でも多く生まれること。それが、この地域の産業の未来にとって、大きな力になると信じています。
もっと深く学びたい方へ
体系的に人事の実践知を身につけたいなら、人事のプロ実践講座へ。
日々の悩みを仲間と共有したい方は、人事図書館へ。
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