広島のベンチャー企業が急成長期に人事制度を整える方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
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広島のベンチャー企業が急成長期に人事制度を整える方法——中国・四国で人事に取り組む方へ

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広島のベンチャー企業が急成長期に人事制度を整える方法——中国・四国で人事に取り組む方へ

「社員が10人を超えたあたりから、なんとなくうまくいかなくなった」。広島のあるIT系ベンチャーの経営者から、こんな相談を受けたことがあります。

創業から3年で売上は5倍になった。メンバーは気心の知れた仲間同士で、評価制度も給与テーブルもなく、社長が全員の給与を「えいや」で決めていた。それでも回っていた。しかし、社員が15人を超え、中途入社のメンバーが増えてきたあたりから、「なぜあの人の給与が自分より高いのか」「評価の基準がわからない」という声が漏れ始めた。創業メンバーと中途メンバーの間に、見えない溝ができていた。

私はこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきましたが、ベンチャー企業の急成長期における人事制度の整備は、早すぎても遅すぎてもうまくいかない、タイミングが非常に重要なテーマです。特に広島のベンチャー企業には、東京のスタートアップとは異なる地域特有の事情があります。この記事では、広島のベンチャー企業が急成長期に人事制度をどう整えていくかを、経営数字の視点から考えていきます。


広島のベンチャー企業が置かれている環境

広島は、自動車産業を中心とした製造業の街というイメージが強いですが、近年はIT・デジタル系のベンチャー企業が増えています。広島県が推進するイノベーション支援策や、ひろしまサンドボックスのような実証実験プラットフォームを活用して成長する企業が出てきています。

しかし、広島のベンチャー企業には東京とは異なる課題があります。まず、人材プールが限られている。東京であれば「スタートアップで働きたい」という志向を持つ人材が一定数いますが、広島ではベンチャーで働くこと自体がまだ一般的ではありません。地元の優秀な人材は大手製造業や公務員に流れやすく、ベンチャーが採用競争で勝つのは簡単ではありません。

次に、ベンチャー向けの人事ノウハウが入手しにくい。東京にはスタートアップ向けの人事コンサルタントやHRテック企業が多数ありますが、広島でベンチャーの人事制度設計を相談できる先は限られています。結果として、「大企業の人事制度をそのまま持ち込む」か「何も制度を作らない」かの二択に陥りがちです。

広島市内のあるSaaS企業の人事担当者Aさんは、こう話してくれました。「東京のスタートアップのブログに書いてある人事制度をそのまま真似しようとしたけど、うちの規模と文化には合わなかった。かといって、地元の中小企業の人事制度は堅すぎて、ベンチャーのスピード感と合わない。結局、自分たちで考えるしかなかった」。


なぜ急成長期に人事制度が必要になるのか

ベンチャー企業の創業期は、制度がなくても回ります。少人数であれば、経営者が全員の顔を見て、貢献度を把握し、報酬を決められる。コミュニケーションも自然に取れる。「制度」という形式的なものよりも、「スピード」と「柔軟性」が優先される時期です。

しかし、社員数が10人を超えたあたりから、状況が変わります。経営者が全員の仕事を把握しきれなくなる。新しく入ったメンバーは「何を基準に評価されるのか」がわからない。給与の決め方が不透明だと、「自分は正当に評価されていないのではないか」という不信感が生まれる。

この「不信感」が、急成長期のベンチャー企業にとって最大のリスクです。人材の流出に直結するからです。

広島のあるフィンテック系ベンチャーでは、創業3年目に主力エンジニアが2名同時に退職するという事態が起きました。理由を聞くと、「自分の貢献がどう評価されているのかわからない」「給与の決め方が不透明で、新しく入った人の方が高いのが納得できない」ということでした。この2名の退職による損失を試算すると、採用コスト(エージェント手数料)が1名あたり約150万円、引き継ぎ期間の生産性低下が約200万円、新メンバーが戦力化するまでの機会損失が約300万円——合計で約1,000万円以上の損失です。売上3億円のベンチャーにとって、この損失は経営に直結する規模です。

人事制度は「あったら便利なもの」ではなく、「事業の成長を支えるインフラ」です。この認識を経営者と共有することが、制度整備の第一歩になります。


「完璧な制度」を作ろうとしない

急成長期のベンチャー企業が人事制度を整える際に、最も避けるべき失敗は「完璧な制度を最初から作ろうとすること」です。

大企業の人事制度は、何十年もかけて改良を重ねた結果のものです。それをベンチャー企業が一から再現しようとしても、時間とコストがかかりすぎて事業のスピードを殺してしまいます。また、急成長期は事業の方向性自体が変わりうるため、精緻な制度を作っても半年後にはフィットしなくなる可能性があります。

広島のあるロボティクス系ベンチャーでは、外部のコンサルタントに依頼して半年かけて精緻な等級制度と評価制度を設計しました。しかし、その制度が完成した頃には事業の方向性が変わっており、設定した評価基準が現場の実態と合わなくなっていた。結局、多額のコンサルティング費用をかけた制度はほとんど使われずに終わりました。

急成長期に必要なのは、「完璧な制度」ではなく「最低限の納得感を提供する仕組み」です。具体的には、以下の3つの要素があれば、まずは十分です。

一つ目は、等級(グレード)の明確化。「あなたは今このレベルで、次のレベルに上がるにはこういう要件が必要」ということが示されていること。5段階程度のシンプルな等級で構いません。

二つ目は、報酬レンジの設定。各等級に対応する給与の幅が決まっていること。「この等級の人の給与は○○万円から○○万円の範囲」ということが明示されていれば、「なぜあの人が自分より高いのか」という疑問に対して、制度的な説明ができます。

三つ目は、評価の機会とフィードバック。半年に1回でもいいので、「あなたの仕事はこう評価されている」「次にこういうことができるようになるとレベルアップにつながる」というフィードバックの場を設けること。

この3つの仕組みを作るのに、何ヶ月もかける必要はありません。1〜2ヶ月で設計し、運用しながら改良していく。ベンチャーらしい「走りながら作る」スタイルで制度を整えることが重要です。


経営数字から制度設計の優先順位を決める

人事制度を整備するといっても、等級制度、評価制度、報酬制度、研修制度、福利厚生——すべてを同時に着手することはできません。限られたリソースの中で、何から手をつけるかを判断する必要があります。

その判断基準になるのが、経営数字です。

まず確認すべきは「離職率」と「離職コスト」です。急成長期のベンチャーで離職率が高い場合、その原因が「制度の不備」にあるかどうかを特定します。退職面談のデータを分析して、「評価の不透明さ」「キャリアパスの不明確さ」「報酬への不満」のどれが最大の要因かを見極める。最大の要因に対応する制度から優先的に整備します。

次に「採用コスト」を見ます。ベンチャー企業が人材紹介会社を使うと、年収の30〜35%が手数料として発生します。年収500万円の人材を3名採用すれば、500万円以上の採用コストです。制度を整備することで「この会社はしっかりしている」という印象を求職者に与えられれば、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用の成功率が上がり、エージェント依存度を下げられます。

広島のあるヘルステック系ベンチャーでは、まず報酬制度の整備から着手しました。理由は、退職者の面談データで「報酬の決め方がわからない」が最も多い不満要因だったからです。5段階の等級と各等級の報酬レンジを設定し、全社員に説明会を実施。この施策の投資額は、制度設計に使った外部アドバイザーへの報酬30万円と、社内での設計作業に費やした時間の人件費約50万円で、合計80万円程度でした。一方、この制度導入後の1年間で離職率が25%から12%に改善し、離職コストの削減効果は年間約400万円と試算されています。


ベンチャーの成長フェーズ別に見る制度設計のロードマップ

ベンチャー企業の人事制度は、事業の成長フェーズに合わせて段階的に整備していくのが現実的です。

フェーズ1:社員5〜15人(シード〜アーリー期)

この段階では「制度」と呼べるものは最低限で十分です。必要なのは、以下の3つだけ。「給与の決め方のルール」(経営者の一存ではなく、何らかの基準に基づいて決めるということ)。「試用期間の運用ルール」(何を基準に本採用を判断するかを明確にする)。「就業規則の最低限の整備」(法定要件を満たすレベル)。

この段階で精緻な等級制度を作っても、すぐに改定が必要になります。「暫定ルール」として運用し、組織が大きくなったら見直すという前提で設計してください。

フェーズ2:社員15〜30人(グロース初期)

このフェーズが、人事制度を本格的に整備するタイミングです。経営者が全員を直接マネジメントできなくなり、「中間管理職」的な役割が生まれ始める時期。ここで必要になるのが、等級制度(5段階程度)、報酬レンジ(各等級の給与の幅)、評価制度(半期ごとの評価とフィードバック)の3つのセットです。

広島のあるEdTech系ベンチャーでは、社員20名の段階で以下の等級を設定しました。「メンバー」(入社〜独り立ち)、「シニアメンバー」(自走できる)、「リード」(チームをまとめられる)、「マネージャー」(組織成果に責任を持てる)、「ディレクター」(事業全体を見られる)。各等級に「この等級に求められる行動と成果」を3〜5項目で定義し、報酬レンジを設定しました。

フェーズ3:社員30〜50人(グロース中期)

部署やチームの分化が進み、マネジメント層の育成が重要になる時期です。このフェーズでは、「マネージャーの評価者研修」「1on1の仕組み化」「人材データベースの整備」が必要になります。また、労務管理の負荷が増えるため、勤怠管理や労務手続きのシステム化も検討するタイミングです。

フェーズ4:社員50人以上(スケール期)

人事の「専門チーム」が必要になるフェーズです。採用担当、労務担当、制度企画担当といった専門分化が進み、「人事戦略」を策定する機能が求められます。ここまで来ると、中小企業の人事とは異なる課題が出てきますが、フェーズ1〜3で基盤を作っていれば、スムーズに移行できます。


広島のベンチャー企業が陥りがちな3つの失敗

私がこれまで見てきた広島のベンチャー企業の人事制度整備で、繰り返し起きる失敗パターンが3つあります。

失敗1:東京のスタートアップの制度をそのまま真似する

東京のスタートアップが採用している「OKR」「360度評価」「ティール組織」といった先進的な手法を、文脈を理解せずに導入するケース。これらの手法自体が悪いわけではありませんが、前提として「社員が自律的に動ける文化」「人事やマネジメントの経験者が社内にいる」「制度を運用するための時間的余裕がある」といった条件が必要です。これらの条件が揃っていない段階で導入しても、形骸化するだけです。

広島のある企業では、OKRを導入したものの、「目標設定の仕方がわからない」「週次のチェックインに時間がかかりすぎる」という声が上がり、3ヶ月で運用が形骸化しました。シンプルな目標管理(半期の目標を3つ設定し、半期末に達成度を評価する)に切り替えたところ、むしろ機能するようになりました。

失敗2:制度を作っても「運用」を設計しない

制度設計は「作ること」が目的ではなく、「運用すること」が目的です。しかし、制度のドキュメントを作って満足してしまい、実際の運用設計(誰がいつどのように評価するか、評価結果をどう報酬に反映するか、評価者にどんな研修をするか)が抜け落ちるケースが多い。

失敗3:創業メンバーを「例外」にする

創業メンバーに対して「あの人は創業時からいるから」と制度の例外を認めてしまうケース。これは、制度に対する信頼を根底から壊します。制度を導入する以上、全員が同じルールに従う。創業メンバーの貢献は、等級や報酬で正当に反映すればよいのであって、制度の適用範囲から外すことで報いるべきではありません。


事例:広島のSaaS企業が人事制度を整えた過程

広島市南区にある従業員25名のSaaS企業の事例を紹介します。この会社は、地域の中小企業向けに業務管理クラウドサービスを提供しており、直近2年で売上が3倍に急成長していました。

創業者のDさんが人事の課題を意識し始めたのは、社員が18名になったときでした。それまで、給与はDさんが「この人にはこのくらい」と決めていました。しかし、同じ時期に入社した2人のエンジニアの給与に30万円の差があることを知った社員から、「基準がわからない」という声が出始めた。

Dさんは、以下のステップで制度を整備していきました。

まず、「現状の数字の棚卸し」。全社員の給与を一覧にし、入社時期、職種、等級(ここでは便宜的に「担当レベル」「リーダーレベル」「マネージャーレベル」と分類)に整理しました。すると、「同じレベルなのに給与差が大きい」「入社時の交渉力で給与が決まっている」という実態が見えてきました。

次に、シンプルな等級と報酬レンジの設計。5つの等級を設定し、各等級に月給の上限・下限を設定しました。既存社員の給与を見ながら、現実的なレンジを設計。全員の給与がレンジ内に収まるように調整しました(一部の社員は昇給、一部は据え置き)。この調整にかかった人件費の増加は年間約120万円でしたが、Dさんは「離職を1名防げれば十分に回収できる投資」と判断しました。

そして、半期評価とフィードバック面談の導入。評価シートはA4用紙1枚のシンプルなもので、「成果目標(3つ)」「行動評価(5つの基準)」「本人コメント」「上長コメント」だけ。評価者研修は90分のワークショップを1回実施しました。

制度導入から1年後の成果は以下の通りです。離職率が30%から10%に改善。採用面接での「この会社はきちんとしている」という応募者の声が増え、内定承諾率が60%から80%に向上。人件費率は売上成長に伴い2ポイント低下し、収益性も改善。

Dさんは振り返って、「もっと早くやればよかった」と言っていました。しかし、私の経験では、社員15〜20名のタイミングは決して遅くない。むしろ、このタイミングで制度を整備できた企業は、その後の成長がスムーズに進むケースが多いです。


ベンチャーの人事制度と「カルチャー」の関係

人事制度を整えるときに忘れてはならないのが、制度と企業カルチャーの整合性です。

ベンチャー企業には、それぞれ固有のカルチャーがあります。「スピード重視」「チャレンジを推奨する」「フラットなコミュニケーション」——こうしたカルチャーは、創業期に自然と形成されるものです。人事制度は、このカルチャーを破壊するものであってはなりません。

たとえば、「フラットなコミュニケーション」を大切にしている企業が、階層的な等級制度を導入すれば、カルチャーとの矛盾が生じます。そうした場合は、等級の名称を「役職」ではなく「期待される役割の範囲」として設計し、等級が上がっても「偉くなる」のではなく「責任範囲が広がる」という位置づけにする。

制度は「カルチャーの言語化」であるべきです。「うちの会社はチャレンジを大切にする」というカルチャーがあるなら、評価基準に「新しい取り組みへの挑戦」を含める。「チームワークが大事」というカルチャーなら、「周囲への貢献」を評価項目に入れる。制度を通じてカルチャーを明文化し、強化していくことができます。


人事制度を「投資」として経営者に説明する

ベンチャー企業の経営者は、「人事制度を作る時間があるなら、その分をプロダクト開発や営業に使いたい」と考えがちです。限られたリソースの中で、人事制度の整備に時間と費用をかけることの意味を、経営者に納得してもらう必要があります。

ここでも「経営数字」が武器になります。

「現在の離職率は年間25%で、年間の離職コストは約800万円です。人事制度の整備に投資額100万円・設計期間2ヶ月をかけることで、離職率を15%に改善できれば、年間約300万円のコスト削減になります。初年度で投資回収でき、2年目以降は純粋な利益改善です」。

「採用にかかる平均期間は現在4ヶ月ですが、人事制度が整備されていないことが内定辞退の要因の一つになっています。制度整備により採用期間を3ヶ月に短縮できれば、1ヶ月分の機会損失(約200万円)を解消できます」。

こうした数字を示した上で、「人事制度の整備は、事業成長を加速するための投資です」と伝える。経営者が判断しやすい言葉で、人事の重要性を語ることが、人事担当者の仕事です。


広島のベンチャーエコシステムを活かす

広島には、ベンチャー企業同士のつながりや、支援機関のネットワークがあります。これを人事制度の整備にも活かすことができます。

広島のベンチャーコミュニティでは、人事の悩みを共有する場が少しずつ増えています。同じフェーズのベンチャー同士で、「うちはこうやって等級制度を作った」「評価制度はこういう失敗をした」という情報交換ができれば、一から手探りで進める必要がなくなります。

また、広島県内の大学(広島大学、広島市立大学など)との連携は、インターンシップの受け入れや新卒採用の接点として有効ですが、「しっかりした人事制度がある」ことが、大学側が学生に推薦する際の安心材料にもなります。

制度を整えることは、「社内の問題を解決する」だけでなく、「外部からの信頼を得る」という対外的な効果も持っています。投資家やパートナー企業に対して、「組織として健全に成長している」ことを示す材料にもなるのです。


「型」にはまらない柔軟さを持ち続ける

最後に、急成長期のベンチャー企業に伝えたいのは、「制度を作ったら終わり」ではないということです。

ベンチャーの強みは、変化に対応する柔軟性です。人事制度も同じで、「半年に1回は制度の見直しを行う」「現場からのフィードバックを制度改善に反映する」「事業フェーズが変わったら制度も変える」——この柔軟さを失わないでください。

制度は「社員の行動を縛るもの」ではなく、「社員が安心して挑戦できるための基盤」です。基盤がしっかりしていれば、その上で社員はより大胆に動ける。広島のベンチャー企業が、適切なタイミングで適切な制度を整え、急成長期を乗り越えていくこと。それが、広島のベンチャーエコシステム全体の活性化につながると考えています。

人事制度の整備は、地味な仕事に見えるかもしれません。しかし、事業が急成長しているときこそ、組織の土台を固めることが経営にとって最も価値のある投資になります。その投資判断を、数字で語り、経営者と合意し、実行できる人事担当者が、広島のベンチャー企業にもっと増えてほしい。それが、この記事を通じて伝えたいことです。


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