
中国・四国の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
- 採用広報が必要になった背景
- 採用広報の「設計図」を描く
- ステップ1:「誰に届けたいか」を明確にする
- ステップ2:「何を伝えるか」を整理する
- ステップ3:「どこで発信するか」を選ぶ
- 採用広報のコンテンツ制作
- 社員インタビュー
- 1日の仕事の流れ
- 経営者メッセージ
- 職場環境の紹介
- 採用広報を「経営数字」につなげる
- 測定指標の例
- 数字で考えるインパクト
- 中国・四国の地域特性を活かした採用広報
- 「地元で働く価値」を発信する
- 地域の産業特性と自社の強みを紐づける
- 地域コミュニティとの接点を見せる
- 採用広報の運用体制
- 小さく始める
- 社内の協力を得る
- 外部パートナーの活用
- 採用広報でよくある失敗と対策
- 失敗1:更新が続かない
- 失敗2:「良いことしか書かない」
- 失敗3:ターゲットがぼやけている
- 失敗4:経営者が関与しない
- 採用広報の始め方——最初の90日
- 最初の30日:準備と設計
- 31〜60日:コンテンツ制作と発信開始
- 61〜90日:運用と改善
- まとめ
中国・四国の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
「求人を出しても応募が来ない。でも、採用広報って何から始めればいいのか、まったくわからないんです」。広島のある部品メーカーの人事担当者から、こんな率直な相談を受けました。
その企業は従業員80名。地元では堅実な経営で知られていましたが、求人広告を出しても応募が年々減少していました。ハローワーク経由の応募はほぼゼロ。大手求人サイトに掲載しても月に2〜3件の応募しか集まらない。しかも、応募してくれた方と自社が求める人材像にギャップがある。
「知名度がないから仕方がない」——この企業の経営者はそう諦めかけていました。
しかし、採用広報の本質は「有名になること」ではありません。「自社がどんな会社で、どんな人と一緒に働きたいのか」を、必要な人に届けること。知名度がなくても、規模が小さくても、自社の魅力を正しく言語化し、適切なチャネルで発信すれば、共感してくれる候補者は必ず現れます。
私はこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきましたが、中国・四国の中小企業ほど「伝えていない魅力」が眠っていると感じています。この記事では、採用広報をゼロから始めるための考え方と具体的な進め方を、経営数字の視点から整理していきます。
採用広報が必要になった背景
中国・四国の中小企業にとって、採用広報がなぜ今これほど重要になっているのか。その背景を整理します。
求人広告だけでは人が集まらない時代:中国・四国地方の有効求人倍率は、多くの県で1.3〜1.8倍の範囲にあります。つまり、求職者より求人の方が多い「売り手市場」が常態化している。求人広告を出すだけでは、他の求人に埋もれてしまいます。
候補者の情報収集行動の変化:求職者は求人票だけで応募を決めません。気になる会社があれば、まず企業名で検索する。ホームページ、SNS、口コミサイト、社員のインタビュー記事——こうした情報を総合的に見て、「この会社に応募するかどうか」を判断しています。つまり、企業側が発信する情報の量と質が、応募の意思決定に直接影響する。
地方の中小企業こそ「差別化」が効く:大手企業は知名度や待遇で勝負できる。しかし、中小企業が同じ土俵で戦う必要はありません。「この会社で働く意味」「この地域で働く価値」——こうした情報は、大手企業では発信しにくい。むしろ中小企業の方が、一人ひとりの社員の顔が見える、経営者の想いが直接伝わるという強みを持っています。
採用広報は「投資」である:採用広報にかけた時間とコストは、単年度の採用活動だけでなく、翌年以降の応募数にも影響する。つまり、資産性のある投資です。求人広告は「掲載期間が終われば効果がなくなる」フロー型のコスト。一方、採用広報で作成したコンテンツ(記事、動画、社員インタビューなど)は、掲載し続ける限り候補者に届き続ける「ストック型」の資産になります。
採用広報の「設計図」を描く
採用広報を始める前に、まず全体の設計図を描くことが重要です。闇雲にSNSを始めたり、社員ブログを書き始めても、効果は限定的です。
ステップ1:「誰に届けたいか」を明確にする
採用広報のターゲットを具体的に定義します。
年齢層:新卒なのか、第二新卒なのか、中途なのか。 職種:営業、技術、管理部門など、どのポジションを採用したいのか。 志向性:地元志向なのか、UIターン志向なのか。安定志向なのか、成長志向なのか。 現在の状況:在職中で転職を検討しているのか、離職中なのか、学生なのか。
岡山のある食品メーカー(従業員120名)では、「30代前半、製造業の経験者で、岡山にUターンしたい人」をメインターゲットに設定しました。ターゲットを絞ることで、「何を、どこで、どう発信するか」が明確になります。
ステップ2:「何を伝えるか」を整理する
自社の魅力を棚卸しします。候補者が知りたいのは、次のような情報です。
事業の社会的意義:この会社は何のために存在し、社会にどんな価値を提供しているのか。 仕事の具体的な内容:日々の業務は何をしているのか。やりがいや面白さはどこにあるのか。 働く人の雰囲気:どんな人が働いているのか。社風はどうか。人間関係はどうか。 成長の機会:スキルアップの機会はあるか。キャリアパスはどうなっているか。 待遇・福利厚生:給与、休日、福利厚生の具体的な内容。 経営者の考え方:社長はどんなビジョンを持っているのか。社員をどう考えているのか。 地域とのつながり:地元にどう貢献しているのか。地域で働くことの魅力は何か。
ここで大切なのは、「背伸びしない」こと。実態以上に良く見せようとすると、入社後のギャップで早期離職につながります。ありのままの姿を伝え、その上で「うちはこういう会社だから、こういう人に来てほしい」と素直に言えることが、採用広報の強さです。
ステップ3:「どこで発信するか」を選ぶ
中国・四国の中小企業が活用しやすい採用広報のチャネルを整理します。
自社ホームページの採用ページ:最も基本となるチャネル。「会社概要」と「募集要項」だけのページでは不十分。社員インタビュー、職場の写真、1日の流れ、経営者メッセージなど、候補者が「ここで働くイメージ」を持てるコンテンツを掲載する。
SNS(Instagram、X、Facebook):職場の日常風景、社員の紹介、イベントの様子などを定期的に発信する。特にInstagramは写真・動画中心で、職場の雰囲気を伝えやすい。
note・ブログ:社員インタビューや仕事のエピソードを記事として掲載する。検索エンジンからの流入も期待できる。
YouTube・TikTok:動画で職場の雰囲気や仕事内容を伝える。製造業の場合、工場の風景や製品が出来上がる工程は、視覚的なインパクトがある。
地域メディアとの連携:地元の新聞、テレビ、ウェブメディアに自社の取り組みを取り上げてもらう。中国・四国の地域メディアは、地元企業のユニークな取り組みを積極的に紹介する傾向がある。
チャネルは「全部やろう」とせず、自社のリソースで継続できる範囲で選ぶこと。週に1回の更新すら難しいチャネルを複数持つより、1つのチャネルを確実に運用する方が効果的です。
採用広報のコンテンツ制作
社員インタビュー
最も効果的な採用広報コンテンツの一つが、社員インタビューです。
インタビューの構成例:
- なぜこの会社に入社したのか
- 現在の仕事内容と1日の流れ
- 仕事のやりがいと難しさ
- 入社前と入社後のギャップ
- 今後の目標やキャリアビジョン
- 求職者へのメッセージ
香川のある建設会社(従業員60名)では、社員5名のインタビュー記事を自社ホームページに掲載したところ、「社員インタビューを読んで応募した」という候補者が半年で4名いました。「求人票だけではわからなかった会社の雰囲気がわかった」「自分と同じような経歴の人が活躍しているのを知って安心した」——こうした声が寄せられています。
1日の仕事の流れ
候補者にとって、「実際にどんな1日を過ごしているのか」は非常に関心の高いテーマです。文字だけでなく、写真やイラストを添えて、タイムスケジュール形式で紹介すると、リアルなイメージが伝わります。
経営者メッセージ
中小企業の場合、経営者の考え方が社風に直結します。経営者自身の言葉で、「なぜこの事業をしているのか」「社員に対してどう考えているのか」「会社をどこに向かわせたいのか」を発信する。
ただし、「理念」や「ビジョン」を抽象的に語るだけでは響きません。「なぜその考えに至ったのか」「どんな経験がその想いの背景にあるのか」——具体的なエピソードを添えることで、言葉に説得力が生まれます。
職場環境の紹介
オフィスや工場、食堂、休憩スペースなど、実際の職場の写真を公開する。「きれいなオフィス」を演出する必要はありません。ありのままの職場風景を見せることで、「こういう場所で働くんだな」という具体的なイメージが伝わります。
採用広報を「経営数字」につなげる
採用広報の効果を、経営数字で測定する視点が重要です。
測定指標の例
応募数の変化:採用広報を始める前と後で、応募数がどう変化したか。チャネル別(自社HP経由、SNS経由、リファラルなど)に計測する。
応募の質の変化:応募者の中で「書類選考通過率」「面接通過率」がどう変化したか。採用広報によって自社の情報が正しく伝わっていれば、「自社に合わない人からの応募」が減り、選考通過率が上がるはずです。
採用コストの変化:求人広告費、人材紹介手数料など、1名あたりの採用コストがどう変化したか。採用広報が機能すれば、求人広告への依存度が下がり、採用コストが削減される。
内定辞退率の変化:採用広報を通じて自社の情報を十分に伝えていれば、入社前のギャップが減り、内定辞退率が下がる。
入社後の定着率:採用広報で「ありのままの姿」を伝えていれば、入社後の「こんなはずじゃなかった」が減り、早期離職率が下がる。
数字で考えるインパクト
たとえば、従業員100名の企業で年間10名の採用を行う場合を試算します。
採用広報を始める前:求人広告費300万円、人材紹介手数料200万円(2名×100万円)、応募数50名、採用率20%。1名あたりの採用コスト50万円。
採用広報を1年続けた後:求人広告費200万円、人材紹介手数料100万円(1名×100万円)、自社HP・SNS経由の応募が20名増加(計70名)、採用率を維持。1名あたりの採用コスト30万円。
削減額は年間200万円。採用広報の運用コスト(月5〜10万円、年間60〜120万円)を差し引いても、80〜140万円のプラス効果。さらに、採用広報のコンテンツは翌年以降も使えるため、効果は累積していきます。
中国・四国の地域特性を活かした採用広報
「地元で働く価値」を発信する
中国・四国で採用広報を行う際に、最も強力なメッセージの一つが「地元で働く価値」です。
UIターンを検討している人にとって、「この地域で働くとどんな生活ができるのか」は非常に重要な情報。通勤時間の短さ、住居費の安さ、自然環境の豊かさ、子育て環境の充実——こうした「生活の質」に関する情報を、採用広報に盛り込む。
広島のあるIT企業(従業員30名)では、社員の「ある1週間」をSNSで紹介するシリーズを始めました。平日は広島市内で仕事、退勤後は瀬戸内の夕日を眺めながら散歩、週末は釣りやサイクリング——こうした「仕事と生活の両方」が見えるコンテンツが、UIターン希望者から高い反応を得ています。
地域の産業特性と自社の強みを紐づける
「広島の自動車産業を支えるサプライチェーンの一員である」「岡山のデニム産業の中で独自のポジションを持っている」「香川の讃岐うどん文化を世界に発信する」——自社の事業を地域の産業特性と紐づけることで、「この地域のこの会社だからこそできる仕事」という独自性が生まれます。
地域コミュニティとの接点を見せる
中小企業は地域コミュニティとの接点が多い。お祭りへの参加、地域のボランティア活動、地元の学校との連携——こうした活動は、大手企業にはない「地域密着型企業」の魅力を伝えるコンテンツになります。
採用広報の運用体制
小さく始める
採用広報を始める際に、「専任担当者」を置く必要はありません。人事担当者、あるいは社内で情報発信に関心のある社員が「兼務」で始める。最初は月に2〜3本のコンテンツ発信から始め、徐々にペースを上げていく。
社内の協力を得る
社員インタビューや職場の写真撮影には、社内の協力が不可欠。「なぜ採用広報をやるのか」「社員の協力がなぜ必要なのか」を丁寧に説明し、協力を得る。「自分の会社の魅力を伝えることは、一緒に働く仲間を増やすこと」——この趣旨を理解してもらう。
山口のある建材メーカー(従業員90名)では、各部署から「採用広報サポーター」を1名ずつ選出。月に1回、写真や短い記事を提供してもらう仕組みを作りました。サポーターにとっても、自分の仕事を社外に発信する機会は、仕事への誇りやモチベーションにつながっています。
外部パートナーの活用
文章の執筆やデザイン、動画制作は、外部のフリーランスや制作会社に依頼することも選択肢です。地元のクリエイターと連携することで、地域の文脈を理解した質の高いコンテンツが制作できます。
採用広報でよくある失敗と対策
失敗1:更新が続かない
採用広報を始めたものの、忙しさにかまけて更新が止まる。1ヶ月、2ヶ月と更新がないSNSアカウントは、かえってマイナスの印象を与えます。
対策:更新頻度を下げてでも「継続」を最優先にする。週1回が難しければ月2回。月2回も難しければ月1回。「続けること」が最も大切です。また、コンテンツをまとめて作成する「バッチ制作日」を月に1日設けると、継続しやすくなります。
失敗2:「良いことしか書かない」
会社の良い面ばかりを強調すると、入社後のギャップで失望を招きます。
対策:課題も含めて正直に伝える。「残業はゼロではないが、月平均20時間以内に抑えている」「離職率は全国平均より低いが、ゼロではない」——課題を認めた上で、改善に取り組んでいる姿勢を示す方が、信頼感につながります。
失敗3:ターゲットがぼやけている
「いい人が来てくれればいい」という漠然としたターゲット設定では、メッセージも発信チャネルも定まりません。
対策:具体的なペルソナを設定する。「32歳、男性、広島出身で東京の自動車部品メーカーに勤務中。Uターンを検討しているが、地元に自分のスキルを活かせる会社があるか不安」——このレベルまで具体化することで、何を伝えれば響くかが見えてきます。
失敗4:経営者が関与しない
採用広報を人事部門に丸投げする。しかし、経営者の想いや会社のビジョンは、人事部門だけでは語り切れません。
対策:経営者自身が、四半期に1回でもいいので、自分の言葉でメッセージを発信する。社員総会での話、朝礼での一言——こうした場面を録画・記事化して採用広報に活用する。
採用広報の始め方——最初の90日
具体的なアクションプランを示します。
最初の30日:準備と設計
- 自社の採用課題を整理する(応募数、応募の質、辞退率、定着率)
- ターゲット(ペルソナ)を設定する
- 自社の魅力を棚卸しする(社員ヒアリング、経営者インタビュー)
- 発信チャネルを1〜2つ選定する
- コンテンツの年間計画(ざっくりでOK)を作成する
31〜60日:コンテンツ制作と発信開始
- 社員インタビュー2〜3本を制作する
- 経営者メッセージを1本制作する
- 自社ホームページの採用ページを充実させる
- SNSアカウントを開設し、初投稿を行う
61〜90日:運用と改善
- コンテンツの反応(閲覧数、いいね数、問い合わせ数)を確認する
- 社内からの声を集める(協力してくれた社員の感想、応募者の声)
- 次の四半期のコンテンツ計画を策定する
- 応募数・応募の質に変化があるかを確認する
この90日で「採用広報の型」ができれば、あとはその型を回していくだけです。
まとめ
採用広報は、知名度の高い企業だけのものではありません。むしろ、中国・四国の中小企業こそ、採用広報の効果を実感できるはずです。
大切なのは、「自社の魅力を、正しく言語化し、適切な人に届ける」こと。華やかな演出は必要ありません。ありのままの自社を、誠実に、継続的に発信していく。その積み重ねが、「この会社で働きたい」と思ってくれる候補者との出会いを生みます。
中国・四国の企業が、採用広報を通じて「自社の言葉」を持ち、求職者との対話を始めていく。その一歩を踏み出すことが、採用の未来を変える起点になると考えています。
求人広告に頼るだけの採用活動から、自社の魅力を自ら発信する採用活動へ。中国・四国の企業が、採用広報という新しい武器を手に、人材獲得競争を勝ち抜いていかれることを願っています。
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