中国・四国の企業が「暗黙知」を形式知に変える方法——ベテランの知恵を組織の資産にする
制度設計・運用

中国・四国の企業が「暗黙知」を形式知に変える方法——ベテランの知恵を組織の資産にする

#評価#研修#組織開発#経営参画#制度設計

中国・四国の企業が「暗黙知」を形式知に変える方法——ベテランの知恵を組織の資産にする

「来年、工場のベテラン社員が3人定年退職するんです。あの人たちの頭の中にある知識やノウハウが失われたら、品質に影響が出るかもしれない。でも、どうやって引き継いだらいいのか」。広島のある製造業の工場長が、深刻な表情でこう話してくれました。

暗黙知——経験を通じて身につけた、言葉にしにくい知識やスキル。機械の微妙な振動で異常を察知する技術者、顧客の表情から本音を読み取る営業担当者、複雑な法改正の本質を瞬時に理解する人事担当者。こうした暗黙知は、企業の競争力の源泉であり、同時に最も失われやすい資産です。

中国・四国の中小企業では、ベテラン社員の高齢化と退職が進む中で、暗黙知の喪失が切実な経営課題になっています。私は、暗黙知を形式知に変えることは簡単ではないが、「できないこと」ではないと考えています。

この記事では、中国・四国の企業が暗黙知を形式知に変え、組織の資産として蓄積するための方法について考えていきます。


暗黙知と形式知の違い

暗黙知とは

暗黙知とは、個人の経験や直感に基づく知識であり、言語化・文書化が難しいものです。

暗黙知の例。長年の経験で身につけた、設備の調整の「感覚」。顧客との信頼関係を築くための、言葉にしにくい「コツ」。複雑な業務を効率的にこなすための、個人的な「手順」。問題の兆候を早期に察知する「勘」。

形式知とは

形式知とは、言語化・文書化された知識であり、他者と共有できるものです。

形式知の例。マニュアル、手順書、チェックリスト。データベース、ナレッジベース。研修資料、教材。報告書、議事録。

なぜ暗黙知を形式知に変える必要があるのか

暗黙知が個人の頭の中にとどまっている限り、その知識は組織の資産にはなりません。その個人が退職したり異動したりすれば、知識は失われます。

形式知に変換することで、知識が組織に蓄積され、他の社員が学び、活用できるようになります。これは、組織の持続的な競争力を支える基盤です。


暗黙知を形式知に変える4つのプロセス

プロセス1:共同化(暗黙知→暗黙知)

共同化とは、暗黙知を持つ人と一緒に作業することで、暗黙知を体験的に共有するプロセスです。

具体的な方法。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)。ベテランと若手がペアで作業する。見習い制度、メンター制度。

愛媛のある食品メーカーでは、ベテランの職人と若手社員が「師弟関係」のペアを組んで作業しています。言葉では伝えにくい「材料の混ぜ具合」や「火加減の調整」を、一緒に作業する中で体得していく。

ただし、共同化だけでは暗黙知は個人間でしか伝わりません。組織全体に広げるためには、次のプロセスが必要です。

プロセス2:表出化(暗黙知→形式知)

表出化とは、暗黙知を言語化し、形式知に変換するプロセスです。これが最も難しく、最も重要なプロセスです。

具体的な方法

インタビュー形式での聞き取り。ベテラン社員に「なぜそうするのか」「どうやって判断しているのか」を丁寧に聞く。ベテラン自身も、自分のやっていることを意識化していないことが多いため、「なぜ」を繰り返し問うことが重要です。

作業の動画撮影。ベテランの作業を動画で撮影し、後から本人に解説してもらう。「ここでこの角度で見ているのは、○○を確認しているから」——動画を見ながらだと、暗黙知の言語化がしやすくなります。

比較による言語化。「うまくいったとき」と「うまくいかなかったとき」を比較して、何が違うのかを分析する。差異を言語化することで、暗黙知の核心に迫ることができます。

若手からの質問。若手社員がベテランに質問することで、ベテランの暗黙知が引き出されることがあります。「なぜそう判断したんですか」「別のやり方ではダメなんですか」——素朴な質問が、暗黙知の言語化を促します。

島根のある金属加工会社では、ベテランの技術者の作業を動画で撮影し、本人に「実況解説」をしてもらう取り組みを行っています。「このとき、音を聞いている。この音が変わったら、回転数を調整する」——こうした解説つきの動画が、若手社員の教材になっています。

プロセス3:連結化(形式知→形式知)

連結化とは、表出化で得られた形式知を整理・統合し、体系的な知識にするプロセスです。

具体的な方法。マニュアルの作成。ナレッジベースの構築。チェックリストの作成。研修カリキュラムの開発。

個別のインタビューや動画から得られた知識を、整理された文書や教材にまとめる。このプロセスで、個別の知識が体系化され、組織で活用しやすい形になります。

プロセス4:内面化(形式知→暗黙知)

内面化とは、形式知を実践を通じて自分のものにし、新たな暗黙知として定着させるプロセスです。

具体的な方法。マニュアルに基づいた実習。シミュレーション訓練。実務を通じた反復練習。

マニュアルを読んだだけでは、知識は身につきません。実際に手を動かし、繰り返し練習することで、形式知が暗黙知として内面化されます。


暗黙知の形式知化を進める際のポイント

ポイント1:早めに着手する

ベテラン社員が退職する直前に慌てて始めても、十分な成果は得られません。退職の2〜3年前から計画的に着手することを推奨します。

人員の年齢構成を確認し、「3年以内に退職する可能性のあるベテラン」をリストアップする。その中から、特に暗黙知の喪失リスクが高い人材を優先的に対象にする。

ポイント2:ベテラン社員の協力を得る

暗黙知の形式知化は、ベテラン社員の協力なしには進められません。しかし、ベテラン社員の中には、「自分の知識を教えたら、自分の存在価値がなくなる」と抵抗を感じる人もいます。

協力を得るためのアプローチ。「あなたの知識は会社の宝です。それを後世に残すことは、あなたの功績として高く評価されます」——こうしたメッセージを伝えることが重要です。また、暗黙知の形式知化に貢献したことを、人事評価や表彰の対象にすることも有効です。

ポイント3:完璧を求めない

暗黙知のすべてを形式知に変換することは不可能です。どうしても言語化できない「感覚」や「勘」は残ります。

大切なのは、「形式知化できる部分を、できる限り形式知にする」ことです。100%は無理でも、70%を形式知にできれば、それだけで組織の知識基盤は大きく強化されます。

ポイント4:形式知を「使える形」にする

作成したマニュアルやナレッジベースが、「作っただけで誰も見ない」という状態にならないよう注意が必要です。

使いやすさを重視する。分厚いマニュアルよりも、要点を絞ったチェックリストの方が現場で使われる。検索しやすいデジタルのナレッジベースの方が、紙の資料よりも活用される。

定期的な更新。業務の変化に応じて、マニュアルやナレッジベースを更新する仕組みを作る。「作ったら終わり」ではなく、生きた知識として維持する。


中国・四国の企業における暗黙知の重要性

製造業の技術・技能

中国・四国には、高い技術力を持つ製造業が多く存在します。広島の自動車関連産業、岡山の繊維産業、愛媛の造船業、香川のうどん製造業——これらの産業で蓄積された技術・技能の多くは、ベテランの暗黙知として保持されています。

こうした暗黙知が世代交代とともに失われることは、企業だけでなく地域の産業全体にとっても大きな損失です。

サービス業の顧客対応力

サービス業においても、暗黙知は重要です。長年の経験で培われた顧客対応の「勘」——クレームの兆候を察知する力、顧客の真のニーズを引き出す力——これらは、マニュアルだけでは伝えきれない暗黙知です。

事業承継における暗黙知

中国・四国の中小企業で事業承継が進む中、経営者の暗黙知の伝承も重要なテーマです。経営判断の基準、取引先との関係構築のノウハウ、地域社会との付き合い方——創業者や先代経営者の暗黙知を、次世代に伝える必要があります。


暗黙知の形式知化を支えるツールと仕組み

ナレッジベースの構築

形式知に変換した知識を蓄積し、検索・参照できる仕組みを作ります。高度なシステムは必要ありません。クラウドの共有フォルダにマニュアルや動画を整理して保存するだけでも、立派なナレッジベースです。

構築のポイント。カテゴリーを整理し、必要な情報にたどり着きやすくする。定期的に内容を更新し、陳腐化を防ぐ。新しい知識が追加されたら、関係者に通知する。

動画の活用

暗黙知の形式知化において、動画は非常に効果的なツールです。文字だけでは伝わらない「手の動き」「力の入れ方」「判断のタイミング」を、動画であれば記録できます。

スマートフォンで十分な品質の動画が撮影できます。特別な機材や編集技術は不要です。大切なのは、ベテランの作業を「撮影し、解説をつけ、保存する」というプロセスを習慣化することです。

高知のある木工業者では、ベテランの職人の作業をスマートフォンで撮影し、クラウドの共有フォルダに保存しています。「動画を見返すだけで、先輩がどうやっていたかを確認できる。文字のマニュアルよりもはるかにわかりやすい」と若手社員は話しています。

定期的な「知識共有会」の実施

月1回、ベテランと若手が集まり、特定のテーマについて知識を共有する場を設けます。「このトラブルが起きたとき、どう対処するか」「この作業のコツは何か」——こうした対話が、暗黙知の表出化を促進します。


暗黙知を組織の力に変える

暗黙知の形式知化は、時間と手間のかかる取り組みです。しかし、この投資は、組織の持続的な競争力を支える基盤になります。

ベテランの知恵が組織に蓄積され、次の世代がそれを学び、さらに発展させていく。この知識の循環が、組織を強くします。

中国・四国の企業にとって、ベテラン社員の暗黙知は最も貴重な経営資源の一つです。その資源を、個人の退職とともに失うのか、組織の資産として残すのか。この判断が、企業の5年後、10年後を左右します。

「あの人がいなくなったら困る」——この危機感を、行動に変える。それが、暗黙知の形式知化の第一歩です。

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