
中国・四国の働き方事情に合わせた制度設計——中国・四国で人事に取り組む方へ
目次
中国・四国の働き方事情に合わせた制度設計——中国・四国で人事に取り組む方へ
「東京本社で決めた制度をそのまま持ってきたら、現場が混乱した」
広島に本社を置く企業で、人事制度改革を担当したEさんの経験談です。全社一律でリモートワーク制度を導入したところ、工場勤務の社員から「自分たちには関係ない話ですよね」という声が上がり、オフィス勤務者との間に「制度の不公平感」が生まれました。「制度は作ったが、誰のための制度か考えが足りなかった」とEさんは振り返ります。
中国・四国という地域の企業で人事制度を設計するときには、都市部とは異なる「地域の文脈」があります。通勤手段・家族形態・地域の文化・産業特性——これらを無視した制度は、かえって現場の不満を生む原因になります。
中国・四国の働き方の実態
中国・四国の企業の働き方には、都市部と異なるいくつかの特徴があります。
車通勤が前提:公共交通機関が整っていない地域では、車通勤が当たり前です。通勤時間は長くても、電車内での作業はほぼできない。一方で、車さえあれば郊外の住宅からでも通勤できるため、「住む場所の選択肢が広い」という側面もあります。
農業・漁業との兼業文化:島根・鳥取・高知の農山漁村では、会社員でありながら農業や漁業を兼業している社員が珍しくありません。収穫期・漁期には休暇取得や勤務時間の融通が必要になるケースがあり、「農繁期には有給を取りやすい」という暗黙のルールが存在する職場も多い。これを明示的な制度として整備することが、実態に即した制度設計の一例です。
家族介護の担い手問題:高齢化が進む地域では、働き盛りの30〜50代が親の介護を担うケースが増えています。介護休業・介護短時間勤務の制度はあっても「使いにくい」「使ったら仕事への影響が心配」という声が多く、制度と運用の乖離が課題になっています。
制度設計の前に「誰のための制度か」を問う
制度を設計するとき、最初に問うべきは「誰のための制度か」です。全社員に均等に適用する制度を作ろうとすると、誰にとっても使いにくい制度になりがちです。
たとえば、育児・介護支援の制度は、「使う可能性がある人」の実態をヒアリングして設計する必要があります。「法律で定められているから導入した」だけの制度は、実際に使われないことが多い。申請のしやすさ・上司の理解・復職後のキャリア見通し——これらを含めて整備してはじめて「機能する制度」になります。
地域特性を活かした制度設計の事例
事例1:愛媛の食品加工会社の「農繁期休暇制度」
地域農家と深い関係を持つ愛媛の食品加工会社では、農業を兼業している社員が多いことから、「農繁期(4〜5月、9〜11月)に最大5日間の特別有給を取得できる制度」を独自に設けました。法的には有給休暇の範囲内ですが、「農業兼業者への配慮」を明示することで、長年の慣習を制度として整備。社員の定着率向上に寄与しました。
事例2:島根の建設会社の「介護フレックス制度」
高齢化の進む島根県内の建設会社では、40代・50代の中堅社員から介護に関する悩みの声が増えていました。そこで「介護が必要な期間は、週3〜4日勤務のフレックス制度を使える」という独自制度を設けました。収入は減りますが「仕事を辞めずに済む」という選択肢を作ることで、貴重な中堅人材の離職を防いでいます。
事例3:広島の製造業の「多様な転勤選択制度」
広島に本社・岡山と山口に工場を持つ製造業では、転勤をめぐる不満が採用・定着の課題でした。「地元から離れたくない」という求職者からの声が多かったため、「転勤なし枠」「転勤あり枠(手当増)」という選択制の雇用区分を設けました。転勤なし枠は給与水準をやや低めに設定しましたが、「転居を伴う異動なし」を明確にしたことで、地元定住を望む人材からの応募が増加しました。
制度の「骨格」と「運用」の両方を整える
制度を作ることは第一歩ですが、「運用がうまくいかない」という問題は多くの企業が経験しています。
制度が機能しない理由としてよく挙がるのが、「管理職が制度の内容を理解していない」「使いにくい職場の雰囲気がある」「申請手続きが複雑すぎる」という点です。制度の設計と同時に、管理職向けの制度説明・運用ガイドの整備・申請手続きの簡略化を行うことが、制度を「使われる制度」にするための鍵です。
岡山の物流会社では、育児休業取得率がほぼゼロだった状況を改善するため、制度の案内だけでなく「育休を取得した先輩社員の体験談」を社内報に掲載し、管理職向けに「部下が育休を取る際の引き継ぎ手順」を整備しました。翌年度の育休取得率が上昇し、「取れる制度があること」が若い世代への採用訴求にもなっています。
育児・介護両立支援を「制度で終わらせない」
法定の育児休業・介護休業制度は整備されていても、「実際に使いにくい」という職場は中国・四国でも多い。特に製造業・農業・水産業など、現場の人員が少ない業種では「自分が休んだら迷惑をかける」という空気が制度利用を妨げます。
制度を「使える状態」にするために必要なのは、制度の存在を周知するだけでなく、「制度を使った先輩社員のロールモデル」を組織の中に作ることです。育休を取った男性社員のインタビューを社内報に掲載する、介護休業から復職した社員が活躍している姿を社内で見える化する——こうしたことが「自分も使っていい」という職場文化をつくります。
また、育児・介護中の社員が業務を続けられるよう、「業務の棚卸し・可視化・引き継ぎのしやすい仕組み」を日頃から整えることが、制度活用の土台になります。「誰が休んでも回せる職場」を作ることは、単なる有事の備えではなく、日常の業務効率化にもつながります。
制度の「見直しサイクル」を持つ
制度は一度作ったら終わりではなく、運用しながら改善していくものです。特に中小企業では、制度を作った当初は担当者が細かく把握していても、数年後には「この制度の趣旨が分からない」「申請する人が少なすぎて意味があるか疑問」という状態になることがあります。
年1回程度、全制度を棚卸しして「使われている制度・使われていない制度・改善が必要な制度」を整理する機会を持つことで、制度の陳腐化を防ぎ、必要に応じて廃止・統合・新設の判断ができます。制度の棚卸しを通じて、「社員が本当に必要としていることは何か」を問い直す機会にもなります。
制度改革を「コスト」ではなく「投資」として説明する
制度改革の提案を経営者に通す際、最大の壁は「それにかかるコストはどのくらいか」という問いです。
制度改革には直接的な費用(システム整備・手当の追加など)と間接的な効果(採用力向上・離職率低下・生産性改善)があります。「離職率が1%下がると、採用コスト・育成コストの節約額はいくらか」「フレックス導入で通勤ストレスが下がり、離職意向が低下した事例」——こうした数字と事例を使って説明することで、制度改革を「コスト」ではなく「投資」として経営者に理解してもらいやすくなります。
「制度の説明責任」を果たす
制度を作ったら、「社員にきちんと説明する」ことが欠かせません。制度の内容・使い方・申請手順・制度を使った場合の職場への影響——これらを正確に伝えることが、制度の利用率と社員満足度に直結します。
中国・四国の中小企業では、「制度はあるが、社員がその存在を知らない」というケースが珍しくありません。就業規則の改訂時に一度アナウンスしただけで、その後の周知が途切れている——こういった状況では、制度を使いたい社員が「どこに聞けばいいか分からない」という状態になります。
年に1回の「社内制度説明会」の開催や、「全制度一覧のシンプルなQ&A資料」の整備・更新が、制度の認知度向上に有効です。特に入社1年目の社員・育児・介護が見えてきた年齢層の社員には、「自分が使える可能性のある制度」を個別に紹介するアプローチが定着につながります。
制度設計における「労使の対話」の重要性
制度を設計する際、経営者・人事担当者だけで決めてしまうのではなく、社員の声を反映させるプロセスを持つことで、制度への納得感と利用率が高まります。
社員アンケート・グループインタビュー・代表者との意見交換会——これらを通じて「社員が今の働き方で感じている課題」「あったらいいと思う制度」を収集することが、制度改善の出発点になります。中小企業では大規模なアンケートは難しくても、「5名へのヒアリングから始める」という小さな取り組みでも十分な示唆が得られます。
また、制度改定後に「なぜこの制度を変えたか」「社員の意見がどう反映されたか」を社内に開示することで、「意見を言えば制度が変わる」という実感が生まれ、次回以降の意見収集の参加率も上がります。
地方の求職者が「制度面」で重視すること
採用の現場では、「御社の育休制度はどうなっていますか」「残業はどのくらいありますか」という質問が増えています。特に20代・30代の求職者は、制度面での実態を採用の重要な判断材料にしています。
中国・四国の中小企業では、「制度は整っているが、実際に使いやすい文化があるか」という点が問われます。「育休取得率」「残業の平均時間」「有給消化率」といった数字を採用サイトや面接で開示できる企業は、求職者への信頼度が高まります。制度設計と情報開示を組み合わせることで、制度が「採用力の武器」になります。
テレワーク・リモートワーク制度の地方企業における現実
コロナ禍以降、リモートワーク制度は多くの企業で普及しました。しかし、中国・四国の製造業・農業・水産業・小売業など「現場がある業種」では、全員リモートワークという選択肢はありません。
こうした企業での制度設計において重要なのが、「現場に出なければならない職種」と「リモート対応が可能な職種」を正確に区別し、それぞれに適した働き方の制度を作ることです。「工場の作業員と営業事務で同じルールを適用する」という一律対応が、現場の不公平感を生む原因になります。
部分的なリモートワーク導入のアプローチとして、「月に数日はリモート勤務可能」「育児・介護期間中はリモート優先」「出張の代替としての在宅会議」など、完全リモートではなく「ハイブリッド型」の柔軟な設計が現実的です。
人事制度を「採用の武器」として使う
人事制度が整っていることは、採用においても大きな強みになります。
「有給取得率80%」「育休取得後の復職率100%」「管理職の女性比率30%」——こうした具体的な数字は、求職者にとって「この会社の制度は形だけではない」というシグナルになります。これらを採用サイト・求人票・面接の場で積極的に伝えることで、制度が採用の訴求ポイントになります。
制度を整えること、実際に使われる文化を育てること、その実績を数字で語ること——この3ステップを踏んでいる中国・四国の企業は、採用市場でも少しずつ差別化できています。
「地域に根ざした制度設計」を中国・四国から
中国・四国という地域の特性——農業との兼業文化、介護の担い手問題、車社会の通勤スタイル、地域コミュニティへの参加——これらを踏まえた制度設計は、都市部の大企業のコピーでは機能しません。
地域の実態を知っているからこそできる、自社・自地域に合った制度を作ることが、地方中小企業の人事担当者の腕の見せ所です。それは決して「大企業と比べた妥協」ではなく、「地域の強みを生かした人事戦略」です。制度は完成形を目指すのではなく、使いながら育てていくものです。現場の声を聞き、データを見て、少しずつ改善を重ねることが、地域に根ざした制度設計を機能させる継続的な力になります。中国・四国の人事担当者が、この地道な取り組みを続けることが、地域の働き方を少しずつ変えていきます。自社の制度が改善されるたびに、社員の働き方が少し豊かになり、地域の「この会社で働きたい」という人が少しずつ増えていく。その積み重ねが、中国・四国の地域全体の労働市場を着実に底上げし、地域に住む人々の働き方の豊かさにもつながっていきます。
もっと深く学びたい方へ
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