香川・愛媛の観光業がインバウンド対応の人材を育てる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
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香川・愛媛の観光業がインバウンド対応の人材を育てる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ

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香川・愛媛の観光業がインバウンド対応の人材を育てる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ

「お客さんの半分が外国人になったのに、英語で対応できるスタッフは一人しかいない」。香川県のあるうどん店の店主が、困り顔でそう話してくれました。

コロナ禍からの回復とともに、四国へのインバウンド観光客が急増しています。瀬戸内海の島々を巡るアートツーリズム、讃岐うどんの食べ歩き、しまなみ海道のサイクリング、道後温泉の湯治——四国には、外国人観光客を引きつけるコンテンツが豊富にあります。しかし、そのコンテンツを「体験」として提供する人材が圧倒的に不足しています。

インバウンド対応の人材育成というと、「英語ができる人を採用する」という発想になりがちです。しかし、語学力はインバウンド対応に必要な能力のひとつに過ぎません。異文化理解、ホスピタリティ、地域の歴史・文化への深い知識、多言語コミュニケーション——こうした複合的な能力を持つ人材を、地域の中で育てていく仕組みが必要です。

私がこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきた中で、観光業の人材育成には「育てた人が辞める」という特有の課題があることを知っています。インバウンド対応力のある人材は、より待遇の良い都市部のホテルや旅行会社に引き抜かれやすい。だからこそ、「育てる」と「定着させる」を一体で考える人事の仕組みが求められます。


四国のインバウンド観光の現在地

2024年、四国を訪れる外国人観光客は過去最高水準に近づいています。特に注目すべきは、観光客の行動パターンの変化です。

かつての外国人観光客は、東京・京都・大阪のゴールデンルートを巡るパターンが主流でした。しかし近年、「ローカルな日本」を体験したいという層が増えています。農村での農業体験、漁港での朝市見学、地元の祭りへの参加——こうした「深い体験」を求める旅行者にとって、四国は極めて魅力的なデスティネーションです。

香川県の直島・豊島・小豆島を巡るアートツーリズムは、国際的に高い評価を受けています。愛媛県のしまなみ海道は、サイクリストの聖地として世界中から注目されています。高知県の四万十川でのカヌー体験、徳島県の祖谷渓のかずら橋——四国の自然・文化は、インバウンド観光の「素材」として一流です。

しかし、素材が一流でも、それを体験として提供する「人」が不足していれば、リピーターは生まれません。口コミサイトでの評価が低下すれば、長期的に観光客数に影響します。インバウンド対応の人材育成は、四国の観光産業の持続的な成長にとって不可欠な投資です。


インバウンド対応に必要な能力を整理する

「英語ができる」だけがインバウンド対応ではありません。必要な能力を分解して整理します。

語学力(コミュニケーションの基盤):英語に加えて、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語の基礎的な会話力があれば、対応できる観光客の範囲が大きく広がります。ただし、「流暢に話せる」レベルは必要なく、「基本的な案内と笑顔の対応」ができれば十分なケースが多い。翻訳アプリの活用も含めた「実用的なコミュニケーション力」を育てることが現実的です。

異文化理解(トラブル防止の基盤):宗教による食事制限(ハラール、ベジタリアン)、文化的なタブー(靴を脱ぐ習慣、入浴マナー)、チップの文化——これらの基礎知識があるかないかで、トラブルの発生率が大きく変わります。

地域の歴史・文化への知識(付加価値の源泉):外国人観光客が求めているのは「体験」であり、その体験に「ストーリー」を添えられるかどうかが、満足度を左右します。「このうどんの麺は、瀬戸内海の塩と讃岐平野の小麦から作られています」と伝えるだけで、食事が「体験」に変わります。

ホスピタリティ(感動の源泉):言葉が通じなくても、笑顔と気配りで「この地域に来てよかった」と思ってもらえることがあります。形式的なサービスではなく、「一人ひとりのお客さんに心を配る」というホスピタリティの姿勢は、語学力以上に大切な要素です。


経営数字から見るインバウンド対応投資の意味

インバウンド対応の人材育成に投資することの経営的な意味を、数字で整理します。

四国を訪れる外国人観光客の一人あたり消費額は、日本人観光客よりも高い傾向にあります。宿泊、飲食、体験プログラム、お土産——インバウンド客の消費単価が日本人客の1.5倍だとすると、インバウンド対応力を高めることで得られる売上増加は大きい。

たとえば、月間100名のインバウンド客が来訪する宿泊施設で、対応力の向上により顧客満足度が上がり、口コミ評価が0.5ポイント向上したとします。口コミ評価の向上により予約率が10%上がれば、月間10名の追加集客につながります。1名あたりの宿泊単価が2万円であれば、月間20万円、年間240万円の売上増です。

一方、語学研修の費用が年間50万円、異文化理解研修が年間20万円、多言語メニューの整備が30万円——合計100万円の投資で、240万円の売上増が見込めるなら、投資対効果は明確です。


人材育成の4つの実践アプローチ

香川・愛媛の観光業がインバウンド対応の人材を育てるための、具体的なアプローチを整理します。

アプローチ1:実践型の語学研修

座学の語学研修は、受講者のモチベーションが続きにくい。「現場で使える表現」に特化した実践型の研修が有効です。

「チェックイン時に使う英語フレーズ10個」「食物アレルギーの確認に必要な英中韓の表現」「道案内で使うフレーズ」——こうした「場面別フレーズ集」を作成し、ロールプレイで練習する。完璧な文法よりも「通じるコミュニケーション」を重視することで、スタッフの自信と実践力が同時に育ちます。

香川県の小豆島のあるゲストハウスでは、スタッフ全員が「20フレーズの英語」をマスターする研修を行いました。「完璧な英語でなくていい。笑顔で20フレーズが言えれば大丈夫」というメッセージが、語学に苦手意識を持っていたスタッフの心理的ハードルを下げ、3ヶ月で全員が実践レベルに達したそうです。

アプローチ2:異文化理解ワークショップ

外国人観光客との対応で困った経験を共有し、その背景にある文化的な違いを学ぶワークショップが有効です。

「なぜ靴を脱がないのか」「なぜ大浴場に入るのを嫌がるのか」「なぜ料理を残すのか」——こうした「なぜ?」を文化的な背景から理解することで、適切な対応ができるようになります。

地域にいる留学生や国際交流員(CIR)を講師として招くことで、リアルな異文化体験を共有できます。愛媛大学の留学生が地元の旅館で「外国人目線でのサービス改善提案」をプレゼンするイベントが好評だったという事例もあります。

アプローチ3:地域の「語り部」を育成する

インバウンド観光客に地域の魅力を伝える「語り部」の存在は、観光体験の質を大きく向上させます。

「この神社は1200年前に建てられ……」という歴史の解説だけでなく、「この港からは、昔、北前船が瀬戸内海を行き来していて、今のうどん文化は北前船が運んだ小麦粉から始まったと言われています」というように、地域の暮らしと結びついたストーリーを語れる人材を育てる。

語り部の育成は、地域の歴史研究者やボランティアガイドとの連携で進めることができます。観光事業者が単独で取り組むのではなく、地域全体で「語りの力」を高めていくアプローチが有効です。

アプローチ4:テクノロジーの活用で「人」の負担を軽減する

多言語対応のすべてをスタッフの語学力に頼る必要はありません。テクノロジーを活用することで、人材の負担を軽減しつつ、対応品質を維持できます。

多言語対応のタブレット端末を受付に設置する、QRコードで多言語のメニュー・案内を提供する、AI翻訳ツールを活用したリアルタイムコミュニケーション——こうしたツールを「人の補助」として位置づけ、人にしかできない「おもてなし」に人材を集中させる発想が重要です。


観光業特有の「人材定着」課題

インバウンド対応力のある人材を育てても、「育てた人が辞める」のでは意味がありません。観光業特有の定着課題を整理します。

季節変動による不安定な雇用:観光業は繁閑の差が大きく、繁忙期のみの短期雇用に頼る施設も多い。しかし、短期雇用では人材育成ができません。通年雇用を基本とし、閑散期には研修や新サービスの企画など「仕込みの時間」に充てる設計が必要です。

キャリアパスの不透明さ:「現場スタッフ→リーダー→支配人」というキャリアパスはあっても、「インバウンド対応のスペシャリスト」というキャリアが評価されていない施設が多い。語学力や異文化対応力を正当に評価し、処遇に反映する制度が必要です。

「やりがい搾取」の構造:「お客さんの笑顔のために」という「やりがい」に依存して、低賃金・長時間労働を放置する施設は、いずれ人材が離れます。やりがいと適正な報酬は、両立すべきものです。


地域全体でインバウンド対応力を高める

個々の事業者だけでなく、地域全体としてインバウンド対応力を高めるアプローチも重要です。

香川県では、「せとうちDMO」を中心に、地域の観光事業者が連携してインバウンド対応の研修を実施しています。個別の施設では費用負担が大きい研修も、地域で共同開催することでコストを分散できます。

また、地域内の多言語対応マップの整備、観光案内所と個別施設の情報連携、外国人観光客の受け入れに関するガイドラインの共有——こうした「地域ぐるみ」の取り組みが、個々の施設の対応力を底上げします。

愛媛県今治市では、しまなみ海道沿いの宿泊施設・飲食店・レンタサイクルショップが「しまなみインバウンド協議会」を結成し、合同でサイクリスト向けの多言語対応研修を実施しています。「一つの施設だけ対応が良くても、地域全体の体験が悪ければリピートにつながらない」という認識が共有されている好事例です。


インバウンド対応を「地域の誇り」にする

インバウンド対応の人材育成は、単なる「業務スキルの向上」ではありません。自分が暮らす地域の魅力を外国人に伝える力を身につけることは、スタッフ自身の「地域への誇り」を深めることにもつながります。

外国人観光客から「この地域は素晴らしい」と言われたとき、スタッフが感じる喜び。「自分が伝えたことで、お客さんが感動してくれた」という体験。こうした「地域を誇りに思える体験」が、スタッフの定着にもつながる。

香川・愛媛の観光業で人事に取り組む方へ。インバウンド対応の人材育成は、地域の観光産業の未来を左右する投資です。語学力だけでなく、地域の魅力を伝える力、異文化を理解する力、そして「おもてなしの心」を持つ人材を育てること。それが、四国の観光をさらに豊かにする道だと思います。


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