高知の一次産業企業が人材確保と地域活性化を両立させる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
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高知の一次産業企業が人材確保と地域活性化を両立させる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ

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高知の一次産業企業が人材確保と地域活性化を両立させる方法——中国・四国で人事に取り組む方へ

「人が来てくれんがよ」。高知県四万十町にある水産加工会社の社長のこの一言が、私の記憶に残っています。

高知県は、太平洋の豊かな海、四万十川に代表される清流、温暖な気候に恵まれた土地です。カツオの一本釣り、ゆず、みょうが、ショウガ——高知の一次産業は、全国に誇る品質と個性を持っています。しかし、その産業を支える「人」が足りない。

高知県の人口は約66万人で、ピーク時から30%以上減少しています。特に中山間地域や沿岸部では、若者の流出が止まりません。一次産業の現場では、経営者の高齢化が進み、後継者もいない。「このままでは、5年後に事業を続けられない」という声が、水産業、農業、林業の現場から聞こえてきます。

私はこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきましたが、高知の一次産業が直面する課題は、「人事」の枠を超えて「地域の存続」に関わるテーマです。しかし、だからこそ、人事の力——「人を集め、育て、定着させる」という機能——が、企業の経営にも地域の活性化にも直結する重要な役割を持っています。この記事では、高知の一次産業企業が人材確保と地域活性化をどう両立させるかを、経営数字の視点から考えていきます。


高知の一次産業が直面する人材課題

高知県の一次産業は、いくつかの構造的な課題を抱えています。

担い手の高齢化:高知県の漁業就業者の平均年齢は60歳を超えています。農業就業者も同様の傾向です。「あと5年は頑張れるけど、10年後はわからない」——多くの経営者がこう語ります。

若年労働力の絶対的な不足:高知県内の高校を卒業した若者の多くが、県外(主に関西圏・首都圏)に進学・就職します。一次産業の現場で働くことを積極的に選ぶ若者は非常に少ない。

「きつい仕事」のイメージ:一次産業は、早朝からの勤務、肉体労働、天候に左右される収入——こうしたイメージが定着しています。実際にそうした面はありますが、近年は機械化やIT化が進み、かつてとは働き方が大きく変わっている部分もあります。しかし、その変化が十分に伝わっていない。

生活インフラの課題:中山間地域や沿岸部では、「住む場所がない」「買い物が不便」「子どもの教育環境が心配」といった生活面の課題が、移住・就業のハードルになっています。


「人材確保」と「地域活性化」は表裏一体

高知の一次産業における人材確保は、企業単体の課題ではありません。人が来れば地域が活性化し、地域が活性化すれば人が来やすくなる——この好循環を作ることが、根本的な解決策です。

逆に、人が来なければ地域は衰退し、地域が衰退すればますます人が来なくなる——この悪循環に陥っている地域も少なくありません。

人事の視点から言えば、「採用活動を個社で行う」のではなく、「地域全体で人材を呼び込む」という発想が必要です。一社の力では限界がある。しかし、地域の複数の企業、自治体、地域団体が連携すれば、「この地域で暮らし、働く」ことの魅力をトータルで訴求できます。


経営数字で見る人材確保の投資効果

一次産業の経営者は、「人材確保にかける余裕がない」と言うことがあります。しかし、人材が確保できないことによる経営への影響を数字で見れば、「投資しない」方がはるかにコストが高いことがわかります。

高知のある水産加工会社(年間売上8,000万円、従業員12名)の例で考えます。

現在、人手不足により加工ラインの稼働率が80%に低下。フル稼働であれば年間売上は1億円が可能だが、人手不足による売上の取りこぼしが年間約2,000万円。さらに、既存社員への負担が増加し、残業代が年間120万円増加。繁忙期のアルバイト採用に年間200万円。合計で約2,320万円の「人手不足コスト」が発生しています。

一方、正社員2名を採用・定着させるための投資は、採用活動費(就農・就漁フェア出展、SNS運用等)が年間50万円。移住支援(住居の確保、引っ越し補助)が1名あたり30万円×2名で60万円。育成コスト(OJT、研修)が1名あたり50万円×2名で100万円。合計210万円。

210万円の投資で、2,320万円の損失を大幅に軽減できる。この数字は、人材確保を「コスト」ではなく「投資」として捉えるべき根拠です。


高知の一次産業企業が実践できる人材確保の方法

方法1:「半農半X」「半漁半X」モデルの提供

一次産業だけで生計を立てることに不安を感じる人は多い。そこで、「一次産業の仕事+α」の働き方を提案する。農業と観光ガイド、漁業とゲストハウス運営、林業とキャンプ場管理——一次産業を軸にしながら、複数の収入源を持てるモデルを提示することで、「経済的な不安」を軽減できます。

高知県のある農業法人では、ゆずの栽培と加工販売に加えて、農泊(農家民泊)事業を始めました。新規雇用者には「農繁期は農業、閑散期は農泊の運営」という働き方を提示。これにより、年間を通じて安定した雇用と収入が確保でき、「季節変動が大きい」という一次産業の弱点を補っています。

方法2:移住支援パッケージの提供

都市部からの移住者にとって、「住む場所」の確保は最大のハードルです。企業として、社宅や空き家の紹介、引っ越し費用の補助、生活必需品の支援——こうした「移住支援パッケージ」を用意することで、移住のハードルを大幅に下げられます。

高知県の自治体の多くは、移住支援制度(住宅補助、起業支援、子育て支援等)を設けています。企業の支援と自治体の支援を組み合わせれば、「移住にかかる初期費用がほぼゼロ」という状態を作ることも可能です。

方法3:体験型採用の実施

一次産業は、「やってみないとわからない」要素が大きい。1日〜1週間の体験プログラムを用意し、「実際に働いてみて、自分に合うかどうかを確認してもらう」アプローチが有効です。

高知のある漁業会社では、3泊4日の「漁業体験ツアー」を年4回実施しています。参加費は無料(宿泊・食事付き)で、実際の漁に同行し、水揚げから加工まで一連の流れを体験できます。年間の参加者は約30名で、そのうち5名が実際に就漁を決めています。ツアーの運営コストは1回あたり約20万円(年間80万円)ですが、5名の採用効果を考えれば、採用単価は16万円。エージェントを使うよりはるかに低コストです。

方法4:地域おこし協力隊との連携

地域おこし協力隊は、都市部から地方に移住して地域活動に従事する制度です。任期は最長3年で、任期終了後にその地域に定住する割合は全国平均で約65%。一次産業との親和性が高く、協力隊員が任期中に農業や漁業の技術を習得し、任期後に一次産業で就業するケースが増えています。

企業として、協力隊員の受け入れに協力し、技術指導や就業機会の提供を行うことで、「3年後の即戦力人材」を育てることができます。

方法5:テクノロジーの活用をアピールする

高知の一次産業でも、IoTセンサーによる圃場管理、ドローンによる作業効率化、データ分析による出荷最適化など、テクノロジーの導入が進んでいます。「一次産業=手作業」というイメージを覆し、「テクノロジーを使って一次産業を革新する」というメッセージは、ITスキルを持つ若者の関心を引きます。


地域全体で取り組む「人材の好循環」

高知の一次産業で人材確保を成功させるには、企業単独の努力だけでは限界があります。地域全体で「人材の好循環」を作る仕組みが必要です。

企業間連携による共同採用

同じ地域の一次産業企業が連携して、合同の採用イベントや合同説明会を開催する。「A社の農業」「B社の水産加工」「C社の林業」——複数の選択肢を一度に提示できれば、移住検討者にとって「この地域に行けば何かしらの仕事がある」という安心感になります。

自治体との協力

高知県や各市町村の移住支援策と、企業の採用活動を連動させる。自治体が主催する移住フェアに企業も参加する、自治体の移住相談窓口で企業の求人情報を紹介してもらう——こうした連携により、「生活」と「仕事」をセットで提案できます。

受け入れコミュニティの整備

移住者が地域に溶け込めるかどうかは、地域コミュニティの受け入れ体制に大きく左右されます。「移住者の相談役」となる先輩移住者のネットワーク、地域の祭りや行事への参加機会の提供、子育て世帯向けの情報提供——こうしたソフト面の受け入れ体制を整えることも、定着率の向上に寄与します。


事例:高知の水産加工会社が人材確保と地域活性化を両立させた話

高知県須崎市にある従業員18名の水産加工会社の事例を紹介します。カツオの加工・販売を主力とし、年間売上は約1.2億円。5年前、経営者のQさんは深刻な人手不足に直面していました。ベテラン社員3名の定年が迫る中、後継者が育っていない。求人を出しても、地元からの応募はゼロでした。

Qさんが取り組んだのは、「地域ぐるみの人材確保」でした。

まず、地域おこし協力隊の受け入れを始めました。須崎市と連携して、「水産加工の担い手育成」をテーマにした協力隊員を2名受け入れ。3年間の任期中に、カツオの目利きから加工技術、品質管理まで、一連の技術を指導しました。

次に、体験型の就漁プログラムを企画。東京と大阪で開催される移住フェアに参加し、「高知で、カツオと生きる」というキャッチコピーで情報発信。体験プログラムでは、カツオの一本釣り漁への同行、加工場での作業体験、地元漁師との交流会を3日間のパッケージで提供しました。

さらに、移住者向けの住居確保に取り組みました。空き家バンクを通じて、会社から徒歩圏内の空き家3軒をリノベーション。移住者に月2万円の格安家賃で提供する社宅として整備しました。リノベーション費用は1軒あたり150万円で、自治体の補助金を活用して実質負担は1軒あたり50万円でした。

5年間の成果。新規雇用者は7名(うち協力隊出身者2名、体験プログラム経由3名、UIターン2名)。7名のうち6名が現在も在籍(定着率86%)。加工ラインのフル稼働が実現し、売上は1.2億円から1.5億円に成長(25%増)。

副次的な効果として、移住してきた若者7名が地域に住むことで、地域の消費が活性化し、休眠していた飲食店が1軒再開。移住者の子ども3名が地元の小学校に入学し、複式学級の解消にもつながりました。

Qさんは言います。「うちの会社だけでは何もできなかった。自治体、地域の漁協、先輩移住者、商工会——みんなで一緒にやったからこそ、人が来てくれた。人が来れば、地域が元気になる。地域が元気になれば、また人が来る。この循環を作ることが、一次産業の経営者にとって最も大切な仕事だと思っています」。


一次産業の人事は「経営」であり「地域づくり」である

高知の一次産業企業にとって、人材確保は経営の生命線です。同時に、人が地域に定着することは、地域の存続そのものに関わる課題です。

人事の力——人を集め、育て、定着させる力——は、企業の経営だけでなく、地域の未来をも左右します。「経営数字から発想する人事」と聞くと、一次産業には縁遠いように感じるかもしれません。しかし、「人手不足のコストを計算し、人材確保への投資対効果を示し、経営者や地域の理解を得る」——これは、規模や業種を問わず通用する人事の基本動作です。

高知の一次産業が持つ「本物の価値」——鮮度、品質、土地の力——を次の世代に引き継いでいくために、人材確保と地域活性化を両輪で進めていく。その取り組みが、高知の未来を支える力になると私は信じています。


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