
島根・鳥取の企業がリモートワークで都市部人材を採用する方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
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島根・鳥取の企業がリモートワークで都市部人材を採用する方法——中国・四国で人事に取り組む方へ
「この仕事、東京にいる人がリモートでやってくれたら助かるのに」。島根県松江市にあるIT企業の経営者がこう漏らしたのは、もう何年も前のことです。しかし、その後のコロナ禍を経て、この発想は「夢物語」から「現実の選択肢」に変わりました。
島根県と鳥取県は、日本で最も人口が少ない県に含まれます。若者の県外流出が続き、地元の企業が人材を確保することは年々難しくなっています。特に、IT・デジタル分野の人材、マーケティングの専門家、経理・財務の実務経験者——こうした専門人材を地元だけで探すのは、ほぼ不可能に近い状況です。
しかし、リモートワークという働き方が普及したことで、「採用市場を全国に広げる」ことが可能になりました。島根や鳥取に住んでいなくても、東京や大阪に住みながら島根・鳥取の企業で働く。あるいは、将来的に移住を見据えて、まずはリモートで仕事を始める——こうした選択肢を用意することで、これまでアクセスできなかった人材プールにリーチできます。
私はこれまで500社以上の企業の人事課題に向き合ってきましたが、リモートワークを活用した採用は、「制度を作れば終わり」ではなく、「組織のあり方を変える」取り組みです。この記事では、島根・鳥取の企業がリモートワークで都市部人材を採用するための実践的な方法を、経営数字の視点から考えていきます。
島根・鳥取の人材課題とリモートワークの可能性
島根県の人口は約66万人、鳥取県は約54万人。両県とも、毎年数千人規模で人口が減少しています。特に20〜30代の流出が顕著で、高校・大学を卒業した若者の多くが県外(主に関西圏・首都圏)に就職します。
この人口減少は、地元企業の採用に直結しています。求人を出しても応募が来ない。来ても、求めるスキルを持った人材ではない。特に専門性の高いポジション——システムエンジニア、デザイナー、マーケティング担当、経営企画——では、地元だけでは人材を見つけられません。
一方で、都市部には「地方で働くことに関心がある」人材が一定数存在します。コロナ禍を経て、「東京にいなくても仕事ができる」ことを実感した人が増えました。「自然が豊かな場所で暮らしたい」「通勤時間をなくしたい」「子育てしやすい環境がいい」——こうしたニーズを持つ都市部の人材に、リモートワークの選択肢を提示することで、採用の可能性が大きく広がります。
リモートワーク採用の経営効果を数字で見る
リモートワークで都市部人材を採用することの経営効果を、数字で整理します。
採用市場の拡大:島根県内だけで採用活動を行う場合、対象となる労働力人口は約30万人。リモートワークで東京・大阪を含む全国に採用市場を広げれば、対象は数千万人規模に。母集団が桁違いに大きくなります。
専門人材の確保:東京であれば、システムエンジニアの求人に対して一定の応募が期待できます。島根で同じ求人を出しても、応募はほぼゼロ。リモートワークを条件にすることで、東京在住のエンジニアが応募してくれる可能性が生まれます。
コスト面の影響:都市部人材をリモートで採用する場合、報酬水準は「都市部の相場に近い水準」を設定する必要があります。島根・鳥取の地元水準よりは高くなりますが、東京のオフィスを構えて人を雇うよりははるかに低コストです。オフィスの賃料、通勤手当、出張費——これらが不要になる分、トータルコストは抑えられます。
島根のあるソフトウェア開発会社(従業員20名)では、リモートワーク採用を始めて2年で、東京から3名、大阪から2名の経験豊富なエンジニアを採用。地元採用では年間0〜1名しか確保できなかったエンジニアが、リモートワーク採用で年間2〜3名確保できるようになりました。報酬は地元水準より10〜20%高く設定していますが、オフィス増床が不要になったことで、トータルコストは地元採用と同程度です。
リモートワーク採用を成功させる5つの条件
リモートワーク採用は、単に「在宅勤務OK」と求人票に書くだけでは成功しません。以下の5つの条件を整える必要があります。
条件1:リモートで完結できる業務を明確にする
すべての業務がリモートに適しているわけではありません。「この業務はリモートで完結できる」「この業務は現地でのコミュニケーションが必要」——業務の棚卸しを行い、リモートワークが可能な範囲を明確にします。
IT開発、デザイン、経理処理、マーケティング企画——こうした業務はリモートとの親和性が高い。一方、現場での製造管理や対面での営業は、リモートだけでは難しい。業務の性質を冷静に判断し、リモート可能な業務に対してリモート人材を配置する。
条件2:コミュニケーションの仕組みを設計する
リモートワーカーが「孤立する」「情報から取り残される」ことは、離職の最大の要因です。以下のコミュニケーション設計が必要です。
日次のテキストベースの進捗共有(チャットツール)。週1回のビデオ会議での状況報告と相談。月1回の全体ミーティング(オンライン)。四半期に1回の対面でのミートアップ(現地訪問)。
特に「四半期に1回の対面ミートアップ」は重要です。リモートワーカーが実際に島根・鳥取の現地に来て、チームメンバーと対面で交流する機会。これにより、「自分はこの会社の一員である」という帰属意識が維持されます。交通費・宿泊費の会社負担は必要ですが、1名あたり1回5〜10万円で、年間20〜40万円程度の投資です。
条件3:評価制度を「成果ベース」にする
リモートワーカーは「オフィスにいないから、何をしているかわからない」という不安を持たれがちです。「長い時間席にいること」ではなく「成果を出すこと」で評価する制度に切り替えることが、リモートワークの前提条件です。
目標管理制度(MBO)やOKRなど、成果ベースの評価の仕組みを整備し、リモートワーカーも現地社員も同じ基準で評価される公平性を担保します。
条件4:ITインフラを整備する
リモートワークに必要なITインフラを整えます。ビデオ会議ツール(Zoom、Google Meetなど)、チャットツール(Slack、Microsoft Teamsなど)、クラウドファイル共有(Google Drive、Dropboxなど)、プロジェクト管理ツール(Backlog、Asanaなど)。
これらのツールの月額費用は、1名あたり数千円程度。50名規模の企業でも、月数万円でリモートワーク環境は構築できます。
条件5:セキュリティ対策を講じる
リモートワークでは、社外からの情報アクセスが増えるため、セキュリティリスクが高まります。VPNの導入、デバイス管理、情報取り扱いルールの策定——これらの基本的なセキュリティ対策は、導入前に整備しておく必要があります。
「フルリモート」と「ハイブリッド」の使い分け
リモートワーク採用には、「フルリモート(完全在宅)」と「ハイブリッド(在宅と出社の組み合わせ)」の2つのパターンがあります。
島根・鳥取の企業にとって、都市部在住のリモート人材は基本的に「フルリモート」になります。毎週出社することは現実的ではないため、月1〜2回の出社、あるいは四半期に1回の現地訪問を組み合わせるハイブリッド型が現実的です。
一方、島根・鳥取に住んでいる社員に対しても、「週数日はリモートOK」というハイブリッド型を導入することで、通勤負荷の軽減や、県内の遠方地域からの通勤者への配慮ができます。
事例:松江のIT企業がリモートワーク採用で成長した話
島根県松江市にある従業員25名のWeb開発会社の事例を紹介します。この会社は、地元企業向けのWebサイト制作・システム開発を主力としていますが、3年前にエンジニア不足が深刻化していました。松江市内でWebエンジニアの求人を出しても、半年間で応募はわずか2件。そのうち入社に至ったのは0件でした。
経営者のWさんは、リモートワーク採用に舵を切ることを決断。以下のステップで進めました。
ステップ1:リモートワーク環境の整備。チャットツール(Slack)、ビデオ会議(Zoom)、プロジェクト管理(Backlog)、クラウドストレージ(Google Drive)を導入。月額費用は全社で約3万円。VPNの導入に初期費用15万円。
ステップ2:リモートワーク前提の求人を開始。求人サイト(リモート特化型を含む2媒体)に「フルリモートOK」の求人を掲載。「島根県松江市に本社がありますが、全国どこからでも勤務可能です」と明記。
ステップ3:報酬制度の見直し。地元の給与水準では都市部のエンジニアを採用できないため、「リモート社員向けの報酬テーブル」を新設。地元の水準より15%高い設定にしましたが、東京の相場よりは低い水準を設定。
ステップ4:コミュニケーション設計。日次のスタンドアップミーティング(オンライン、15分)、週次のチームミーティング(オンライン、1時間)、四半期に1回の松江での全社ミートアップ(2日間、会社負担で交通費・宿泊費支給)を設定。
2年間の成果。リモート採用で5名のエンジニアを新規雇用(東京3名、大阪1名、福岡1名)。全員が在籍中で離職ゼロ。受注可能な案件数が2倍に増加し、売上が1.8倍に成長。四半期ミートアップの際に松江観光を楽しむリモート社員が増え、うち1名が「松江が気に入った」と将来的な移住を検討中。
Wさんは言います。「リモートワーク採用を始めてから、会社の景色が変わった。松江にいるだけでは出会えなかった人材と働けている。それが、仕事の質を上げ、売上に直結している」。
リモートワーク採用の注意点
リモートワーク採用にはメリットが大きい一方で、注意すべき点もあります。
帰属意識の維持:リモートワーカーは、「自分はこの会社の一員だ」という意識が薄れやすい。定期的な対面交流、オンラインでの雑談の場、全社イベントへの参加——帰属意識を維持するための工夫が継続的に必要です。
評価の公平性:「オフィスにいる社員の方が目立ち、評価されやすい」というバイアスが働きやすい。成果ベースの評価を徹底し、リモートワーカーが不利にならない運用を心がける必要があります。
労務管理:リモートワーカーの労働時間管理、安全衛生管理は、法令遵守の観点からも適切に行う必要があります。勤怠管理ツールの導入、在宅勤務中の事故対応ルール、労災保険の適用範囲の確認——これらを事前に整備しておくことが重要です。
情報格差の防止:「現地にいる社員だけが知っている情報」が生まれないよう、情報共有の仕組みを整える。会議の議事録の共有、チャットでの業務連絡の徹底、重要な決定事項のドキュメント化——情報のオープン化が、リモートワークの基盤です。
リモートワークが「地方」の可能性を広げる
島根・鳥取の企業がリモートワーク採用を進めることは、「人材確保」にとどまらない意味を持っています。
都市部の人材が島根・鳥取の企業で働くことを通じて、この地域のことを知り、関心を持ち、やがて移住を考えるかもしれない。リモートワークは、「移住のための助走期間」としても機能します。
また、島根・鳥取の企業がリモートワーク採用で成功する事例が増えれば、「地方の企業でも優秀な人材と働ける」というメッセージが広がり、他の地方企業にも波及効果をもたらします。
人材の確保は、地域の持続可能性に直結する課題です。リモートワークという手段を活用して、都市部の人材と地域の企業をつなぐ。その取り組みが、島根・鳥取の未来を支える一つの力になると、私は信じています。
もっと深く学びたい方へ
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